「浮竹はきれいだね」、と京楽は言う。俺の部屋にごろりと寝転んで、座椅子で大福をかじっている俺を見上げながら。
 そんなことはないと思うがなと返し、ひとつ食うかと差し出した。寝転んで食うのは感心しないなと言うと、まぁいいじゃないとかわされた。酒はないのと聞かれたが、真っ昼間から酒を飲むのはいかがかと思うので夜になとだけ言っておく。

「……本当に、真面目だねぇきみって子は」
「お前が不真面目なだけだろう」
「いんや、誰に聞いたって同じこと言うよ、真面目で穏やかで優しい浮竹隊長ってさ。この歳になって浮いた話のひとつもないんだもん、ボクとは大違いだ」
「お前は浮名を流しすぎだな。いい加減身を固めたらどうだ」
「やだなあ浮竹、ボクがそういうの向いてないって、きみが一番知ってるだろ?」

 大福を咀嚼しながらすっと手を伸ばされたので、空いた湯呑みにぬるくなっていた茶を注いで渡してやる。これぐらいのことは言葉にせずとも互いが意図することを理解できる。長年の付き合いの賜物だ。院生の頃から今日に至るまで、こうやって続けてきた、緩やかな友情の。

「……今年も雪が降るねぇ」
「ああ、明日あたり積もるだろうな」
「雪かきが難儀だけど、早く積もらないかね」
「おや、お前寒いのは好かないんじゃなかったか」
「だねぇ、でも、寒いのも悪かないって思うようになったさ。熱燗が旨いし、それに、きみの髪みたいに白い雪を眺めるのも悪かない」

 真っ白でさぁ、きれいじゃない。自分がそうきれいじゃないからかな、ずっと憧れるよと京楽は言った。
 そうかとだけ俺は返して、小さくなった大福を口に放り込んで茶を啜った。ああ、お前にしてみればそれは女を口説くのと同じ調子なんだろうな。


 人は俺を清廉潔白と言うが、実際のところ俺はそんな高潔な存在じゃない。

 この白が、汚れを知らない白と褒めそやすのはいいだろう。純白の、無垢なる色と。
 しかしこの白は、汚れもすべて飲み込んだ上で真白に覆い隠してしまうとも言えるだろう。純白に、表面だけの純真さを纏って。

 ……なあ京楽、おまえなら分かるだろう。察しのいいおまえなら、おまえに見せているこの俺が、醜く欺いてる男だってことを。おまえの傍で笑っている、長年付き合っていたこの俺は、親愛という生ぬるい関係から抜け出せない臆病者だ。諦めも入っているのかもしれない。何かを諦めるのは得意なんだ、病持ちのおかげで。おまえと俺の、変わることない友情という現状に、満足してしまえばいい。

「……浮竹ぇ」
「、なんだ?」
「何か、考え事でもしてた?」
「分かるか」
「そりゃあ長い付き合いだからねえ。何考えてるかまではわかんないけど」
「はは、そっか」

 そこで何考えてたの、と聞いてこないところは望ましくもあるが、何とはなく、聞いてほしかったとも思った。ただきっかけが欲しいだけだ、俺は。

 しんしん降り続ける雪に、このよこしまな感情もあさましい俺自身も何もかも、埋もれ隠してしまえばいいと思う。
 そろそろ酒呑もうか、熱燗準備してくるよと言って京楽は席を立った。まだ夕方ぐらいなものだが、まあいいだろう。一時だけでも、酒に任せて忘れてしまいたくも、あるんだ。



101103


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