「シロさん」
「何だい、深刻そうな顔しちゃって」
「お願いしたいことがあるんですが」
「珍しいねぇ君が頼み事するなんて。どうしたの?」
「………抱かせてください」
「…………その言葉の意味そのままでよければ、はいどうぞ」

 ほら、飛び込んでおいでと朗らかにシロさんは笑う。両手を広げて待ち構えられて、とりあえずばっと抱きしめた。

「…って、違います俺がお願いしたのはこんなんじゃなくて!」
「……へえ、裏の方か」
「そうそう…って何であっさり言っちゃうんですか! 俺ずっと悩んでたのに!」
「理由は簡単さ、」

 そこでシロさんは一息置いて、ゆっくりと息を吐き出した。

「6年も妻や娘に会ってなくて、その間ずっと性欲と無縁で過ごしてられると思うかい? …残念ながら、俺はそこまで清い人間じゃないんだ」
「……シロ、さん」
「ねえリクくん、背徳なら俺も十分にしているよ」

 まだまだ枯れるつもりはないからねと唇の端を吊り上げて微笑むシロさんはいつもと全く違う人のようで、それなのに品性なんかは崩さないやらしい笑顔なものだから、俺は思わずシロさんの寝袋を開けていた。

 本気ですか、冗談ですか。軽く首を傾げてにこにこ俺を見ているシロさんは、絶対楽しんでいる。ほいほい引っかかる若者を手玉に取ってる慣れた表情は、俺の動揺をよそに変わらない。
 なかなか動かない俺に焦れたのか、緩やかに腕を回してシロさんは低く囁いてくる。それは俺みたいな若造を煽るには、十分すぎる言葉だった。

「せいぜい、楽しませておくれよ」



 ……彼女にはすまないと思っている。彼の妻子にもすまないと思っている。でも俺はものすごく興奮していた。意地でなるべく表に出さないようにしているけど。
 生まれて初めてのセックスは浮気じみた関係で、ノーマルな性癖を持つと思っていた俺は自分よりかなり歳上の男を押し倒してる。場所はいつもの河川敷、彼の寝床で。
 彼は俺の上で小さく喘いでいる。押し倒したはいいもののやり方がいまいち分からず戸惑う俺を見てとると彼はさっさと体勢逆転して俺に跨がるとイニシアチブを完全に奪って事を進めていく。フェラチオと挿入、彼は俺の上で緩やかに腰を振り、たまにいやらしく俺を見て微笑む。島崎が見たら卒倒しそうだなとぼんやり思いつつ俺は陸に打ち上げられたマグロのように仰向け状態だった。

 いつもの彼は人好きのする笑顔に漂う洗練さ、爽やかに白線の上を歩き続ける四十路ちょっと過ぎには見えないひと。今の彼は歳や普段の雰囲気に似合わない色気を振り撒き、妖艶でまるで娼婦のようなひと。初な男(この場合は俺だが、初じゃない男もいたかもしれない)を誘って快楽を与え与えられる夜に引きずりこむ。

 「気持ちいい、かい?」と気まぐれに腰を振りながら彼は微笑し、焦らすようにゆっくり挿入を繰り返す。やけに乾く唇を舐めながら頷くと、素直な君も可愛いものだねとシロさんは言った。完璧子供扱いというか年下の男をからかって遊んでいる風だ。
 ……そこで、ぷちんと何かが切れた。俺だって健全な成人男子だ。性欲だって一応ある(このセックス、俺はシロさんを本当に彼女とは別に愛しているのか、それとも単に彼で抜きたかっただけなのか分からない)し、イニシアチブをずっと奪われたままじゃ物足りない。本能的な欲求が疼きだしたのもあって予告なしに下から突き上げて再び彼を押し倒すと、テクニックなしの長いキスをひとつ。青臭い味がした。

「……どうしたの? ずいぶん荒っぽいねえ」
「…シロさんが悪いんです」
「はは、若いなあやっぱり……うん、早く続きをしようよ。君が楽しませてくれるんだろ?」

 がっついていいからさ、とくすくす笑いながらシロさんはねだるように腕を伸ばしてきた。しゅるり、と俺の首に腕を絡めて、繋がったままの穴が少しきつくなった。



本気でもあり、冗談でもある
(どっちかなんて判断できない)(少なくとも俺は)



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