オレの幼馴染を紹介しよう。内藤馬乃介ってヤツだ。オレの唯一の幼馴染。
 ……ま、幼馴染だからと言って麗しき友情があるかと聞かれたらオレはノーと答えるね。あいつはどうだか知らないよ、馬鹿なヤツだもの、唯一の幼馴染としてオレを疑うことも知りゃしない。オレはあいつを嫌いだというのに。嫌いだって口に出して言ってやるのに。それでもあいつはスルーして、そうかと無理矢理笑ってる。イミわかんないんですけど。
 嫌いだ嫌いだ、あいつは18年前にオレを縛って閉じ込めた。オレは父さんの味見に行かなければならなかったのに。ぼろぼろ泣きながらあいつは、親父の命令なんだ、逆らえねぇとか言い訳しながらオレの手首を縄で縛って、そんでふたりして寒い中車に閉じ込められた。死ぬかと思った。それもあって、オレは馬乃介が嫌いだ。結果的にオレはあいつに殺されかけたんだもの。
 それがさ、ちゃんちゃらおかしいよね。オレとあいつは幼馴染の一線を軽く越えちゃってるんだ。オレはあいつの情人。お人好しのあいつはオレのことを何でも知りたがった。知ることでオレのことを知ろうとしていた。会わないでいた空白をも埋めることで、オレを受け入れようだなんて、思い上がっていた。
 けれど自分に好意を抱く人間ってのは利用しやすい。オレは考えた。オレの大事な幼馴染、オレはあいつに重要な貸しがある。オレのために犠牲になれと対価を要求したら、きっと返してくれるだろう。オレは考えた。たったひとりの幼馴染、男同士、それら踏まえてあいつに精神的ダメージを与えられそうな要求をすればいい。答えは比較的すぐに出た。

「オレのコイビトになってよ」

 くすくす笑いながら、チェックメイトを決めたあとに何気なく言い放ってやった。オレだって健全な男だ、性欲だってある。ただそれを掃き出す先がない。女を作れば面倒だろう、恋心とか言う感情に突き動かされて予期しない行動に走られたらまずい。その点こいつなら安心だ、孕まないし、幼馴染で一回オレを裏切ったって弱みがあるから二度目は起こらないだろう。
 調べたら男でもセックスして突っ込めるってあったから、じゃあこいつをオレの肉便器にでも使ってやろうかなんて決めて、性欲のはけ口にこいつを求めた。わざわざコイビトって言ってやったのは、コイビトから突き落としたときのこいつの絶望が見たいからだ。愛した人間に裏切られるだなんて悲劇、恰好の餌だ。あいつはホモだかなんだか知らねえけど、馬乃介はオレの幼馴染という地位にひどく固執してたから、恋人へのランクアップを二つ返事で受け入れた。幼馴染からの恋、響きだけ聞けば甘酸っぱいときめきがあるから。あいつが本気でコイビト? ムリムリムリ、ありえないよ!


 オレの幼馴染を紹介しよう。猿代草太ってヤツだ。オレの唯一の幼馴染。
 オレたちはどっちも父親の記憶を持ったままの孤児、小学校の入学式も親父たちと一緒に行って写真を撮った。オレの唯一の幼馴染、とても大切な親友。
 オレは昔ソウタを縛って危うく殺しかけたことがある。親父に逆らえなかったオレの罪だ、それに反論する気は全くない。ソウタだってそう思っている、オレが弱っちかったから逆らえなくて、あいつを縛らざるをえなかったんだって。ソウタはオレを許す気なんて毛頭ない。常人ならオブラートに包むようなことでも、オレにだけ向けられるあいつは剥き出しの感情を持っている。
 あいつの憎しみ悲しみ、オレはそれを受け入れるしかできない。追っ手から逃げ回るために演じるあいつの表面も隠された本性も、みんなみんな。少しでも話してくれりゃいいのに、あいつは誰にも本音を言わない。オレまで警戒されちまってるみたいだ、はは、前科があるからな。
 そっとソウタの髪に触れる。サーカス用に染めた髪が傷んでいて、きしきししている。ガキの頃はあのつやつやした髪が好きだったんだが、な。もうあのきれいな地毛を見ることなんか、できやしない。オレはソウタが、幼馴染として好きだった。オレの唯一、オレの過去、オレの罪を忘れさせない生き証人。あいつはそう思ってなくてもオレの親友なんだ、大事な大事な。

「オレのコイビトになってよ」

 あるチェスゲームのあとに、ソウタは言い放った。気の抜けた二つくくりの顔で、天気の話でもするみたいに何気なく。討ち取られたキングの駒がぱたりと倒れ、オレはすぐさま「いいぜ」と返事をしてやった。今日はいい天気だな、と同じ調子で。
 もちろんあいつが本気じゃないってのは分かってた。オレのこと嫌いだ嫌いだ言う口が愛してるって言うわけない。けれどソウタはそうなんだろう、コイビトだってオレに囁いて、コイビトごっこがしたいんだろう。目的がコイビトごっことは違うものでも、オレはそのごっこ遊びに付き合ってやる。自分じゃゲイのつもりはねえが、オレはこの幼馴染にひどく執着していて、失うのを恐れている。こいつがいつオレを切り捨てるか怯えてるんだ、オレばかりが欲しがってる、愛をくれよ。コイビトでいいから、頼むから、オレに、なあ、なあ!
 ソウタの辛辣な物言いには慣れちまったが、オレはこいつが欲しい。たとえさっきの台詞の次が「だから、今夜おまえに突っ込ませてよ。ちゃんと準備しといてね、オレに突っ込まれるための準備」であっても、オレに拒否権はない。片っ端から男同士のやり方を調べて、その手の店に恥を忍んで道具を買いに行ったりケツの準備したりと恋人に抱かれる準備をきっちり済ませた。いざ抱かれるときもAVの真似をしてソウタのちんぽしゃぶってねぶって、自分でケツの穴弄ってM字に脚を開いてくぱぁって拡げてやってソウタのちんぽ突っ込んでもらって手酷くずぽずぽされて中出しされて、オレは演技も込みで泣いてよがって悦んでやった。そうしたらソウタは満足そうに嗤って、なんなのおまえ、男に突っ込まれてそんなにイイんだ?とか言ってきたから、喘ぎ声を大きくして、ソウタの声を掻き消して聞こえなくした。ことが終わっても、ソウタが後始末なんてしてくれるわけがなかったので翌日オレは腹痛に見舞われ、風呂場で腹ん中に出されたザーメンを掻きだした。お前のザーメン、オレに搾り出せよ。無理やりにでもおっ勃てて、一発分でいいからよこせよ。幼馴染であり親友であり恋人であるソウタを。ひとりよがりでいい、お前がオレのこと嫌ってたっていい。だから今だけは、オレといるときは、オレだけを見て、オレだけを考えていろ。そうしたら、このむなしい恋人ごっこ、楽しんで続けられそうじゃねえか。


 ああもうバカバカバカ、マノスケのバカ! どうしてそんなに馬鹿なの? なんでおまえ、なすがままになってるわけ? 計画通りにコトが進んで拍子抜けするぐらいだよ、想定外だったのはおまえがオレのもんしゃぶってよがる姿とそれが異様に煽情的だったってことだ。なんでおまえなんかのアヘ顔で煽られなきゃなんないのか、イミわかんない。
 ……これはもう少し、こいつを生かしておいてもいいかもしれない。台本を少し書き換えてみようか。オレの幼馴染、信頼できる駒。18年前のあの日に友だちとしてのオレは死んだ。そこでいったんお前とのつながりを途切れさせたはずなのに、いつの間に戻ってきちゃったんだろう。おまえの謝罪なんて聞きあきた、謝罪の言葉なんて憎悪を再確認させる燃料だよ。忘れるなよ、もう少しこいつを生かしておくけど、いつかはオレがこいつを殺すんだ。オレの手で幕を下ろすコイビトの人生、それまで献身的なおまえの愛でももらってみようか。これが最初で最後のコイビトだもの、愛ってやつをもっとちょうだい。一生分の愛をさ、おまえが死んでもオレが余ったやつを抱えといてやるから。飽きたらポイッて棄てるけど。
 愛なんかわからないからさ、馬鹿なりに頑張ってオレに教えてよ。おまえの優しさ、オレはめいっぱい利用してみせるからさ。使い勝手が良くて便利なおまえ、手放すのは惜しい気もするけど。


 案外楽しいもんだよなあ恋人ごっこ。オレが勝手に恋人ごっこって思ってるだけとはいえ、本物って錯覚しちまいそうだ。なんだかんだ言いながらソウタもけっこうノリノリだし。そんならもっと愛しちまおうか、欲しがっちまおうか。純愛なんかじゃねえ、ソウタは甘いものが大嫌いだからな。オレのエゴがこうさせている。だからオレの心情なんて考えてくれんなよ、洗いざらいぶちまけるには後ろめたいものばっかだから、見せたくねえ。
 おまえはオレがおまえに従うのがトウゼンだって思ってるだろ、言ったらすぐにおまえに抱かせてやるって思ってるだろ。そうだぜ、それがオレの愛ってやつ。オレがおまえのなかでトップを占めたいからな。ちょっぴりでも叶ってると自惚れてもいいか、最近おまえキスをしたらそっちから舌入れてきたり、ヤるときろくでもねえ道具を使いだすとはいえがっついてくるし。もっと要求してみろ、オレが欲しいのはおまえがオレの名前をもっと呼ぶことと恋人に囁くような愛の台詞だ。なあ、優しいんだか優しくないんだかさっぱり読めない、オレの恋人サマ。



愛をもっと頂戴
(二人の関係がこのまま シャットダウンしちゃっていいのかい)




110216


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