「好きだよ、田沼」

 そう言ったら、田沼はほわんと笑みをほころばせて、おれもだよ、と応えた。
 ああかわいいなあ田沼、本当にかわいい。田沼は控えめで純朴なやつだから、たまにこうやっておれに見せてくれるほほえみがおれはとても好きだ。タキやニャンコ先生にも見せている表情だけど、それをひとりじめできるチャンスが多いのはおれの特権だと思っている。

 その特権意識に気づいたとき、おれは自分のなかにもやりとしたものを感じた。おれは田沼がほしいんだろうかって。
 田沼も塔子さんたちみたいにおれの大事な人だ、でも、田沼と塔子さんじゃ大事の種類が違う。

 おまえを特別扱いしたいな、田沼。おれは人付き合いがへたくそだからそういうのわかんないけど、きっとおまえもおれと同じだろう、お互い様かな。
 初恋すらまだのような気がするんだ、この胸のなかにある甘くてすっぱい味は恋の味? 俗に言う恋って名前なら、おれは間違いなくおまえに恋してるよ。
 好きだもの田沼、おれはおまえをもっと知りたいし、近くにいたい。おれの近くにいたらきっとおまえは体調を崩しがちになってしまうから、そんなのおれのわがままでしかないけど。

 友達としての一線を越えて、おまえとお付き合いしたいよ。男子が女子によく言う、「付き合ってください!」って告白、おれはおまえにする。ありったけの勇気を振り絞って、おまえに愛を捧げてみよう。だれかひとりを好きになって、特別扱いしたいだなんて感情、初めてだから、おれは自分でもよくわかっていない。
 ……手探りでいいよな。正解とかやり方の手順とかはないんだし、おれとおまえで手を伸ばしあって、絡めあうように恋をすればいい。おれの特別はおまえにしかあげられなさそうだしさ、だからおまえの特別もおれがもらってしまってもいいか?
 塔子さんたちもすごく大事にしてくれているけど、おれと同じように違う種類の大事さがほしいんだ。経験したことのない特別を、どうかおまえの手で、おれに与えてほしいんだ。

「田沼」
「ん?」
「……おれと、付き合ってください」
「えっ?」
「おれは田沼が好きです。おまえにおれの恋人となってほしい」
「……こい、びと」
「嘘じゃない。冗談でもない。おれは本気だ」
「………夏目」
「おれだって恋のやり方はほとんど知らないし、これがたぶんおれにとって初めての恋なんだ」
「つまり、初恋?」
「たぶん」

 そこで、顔を耳まで真っ赤にした夏目はふいっと首を横にそむけちゃった。けど、おれだって恥ずかしいのだ。ストレートでまっすぐすぎる告白の言葉を、たとえ同性の親友からぶつけられたものとはいえ、照れずにいるなんて無理だと思う。かああっと頬に熱が集まるのがわかって、おれはいたたまれなくなってうつむいた。
 おれの頭の中は真っ白で、言葉の意味を理解しようとせずに、額面通り受け取ってすとんと脳に落としこんで、おれも好きだよと脊髄がくちびるを動かしていた。優しくて穏やかな目の前の親友が、いつもよりひどく幼く見える。いつもはもっとおとなびていて、ふわふわとした笑みを浮かべているから。今の夏目になら、手を伸ばしてもいいだろうか。近くにいるのに、たまに手が届かないところに行ってしまっているようなおまえにふれて、その体温を肌で感じたいんだ。

 おれはおまえの特別になってもいいの? おまえがおれを初めて恋をする相手に選んでくれるのはとても嬉しいのだけど、おれなんかで本当にいいのかな。
 たとえばおまえが悪い妖怪と関わっているとき、おれを気遣ってくれるのは嬉しいんだけど、おれだっておまえともっと関わりたい。そんなにやわくはないさ、少々の無茶はできるから、もっと近くに置いてくれないか。特別扱いしてほしいんじゃなくて、ランクアップを。できるなら、誰よりも近いところにいたいのだけど、それは無理だろうから。おれはできる限り、おまえをおれの特別にするよ。

「……いいのか?」
「ああ。かまわないさ」
「ほんとうに?」
「ほんとうにさ。おれだって、夏目のことが好きで、おまえの恋人になりたいんだし」
「そっか」

 おれも夏目もぱっと見つめあって、照れくさく笑って、ほっとした表情の夏目はそうっとおれの手をとって引き寄せた。ありがとう田沼、おれ、すっごく嬉しい。耳元で囁かれて、心拍数が今になってはねあがる。告白されたという実感が追いついてきて、頬がほてる。
 かわいいよ田沼、すごくかわいい。ほんと、田沼が好きすぎて。やっとさ、わかったんだよ、おまえはおれにとって特別なひとなんだって、おれはそう思っている。とか、恥ずかしい台詞を恥ずかしげもなく言ってのける。あの変わった人の影響なのかってぐらい。

「夏目」
「どうしたの?」
「……おれ、恋とか初めてだしよくわかんないから、恋人らしいこともできないけど、…改めてよろしく」
「そんなの、おれもだよ。正直今までとあまり変わらない気がするし、……でも、田沼がおれの恋人になってくれてよかった。断られるんじゃないかって思ったし」
「……ごめん、おれまだ恋人とかわかってないよ、おまえのこと親友だって思ってるままだけど…夏目のことは特別に好きだ、それはあってる」
「ならそれでいいよ、おれもそんな感じだし。……ところで、ねえ、田沼、」

 ……キスしようか。
 恋人らしいことといえば、やっぱりキスかなと思うし。おまえがいやならしないけど。

 そう言われたら、断る理由もない。ただくちびるを密着させる行為なんだし。
 わかった、じゃあおれのファーストキスもらってくれよと冗談めかして言ったら、夏目はおれだってファーストキスだよと笑った。
 おれが告白したんだし、おれからおまえにキス、させて。と夏目はまっすぐに言った。こういう強引な夏目は珍しいから、なんか喜びもあって、こくりと首肯した。

 ……ならば、さっそく。目を閉じて静かにおれからのキスを待つ田沼はやっぱりかわいくて、おれははやる気持ちを抑えながら、とっている田沼の手をやわらかに握りながら、あわせるだけのファーストキスをそっとした。



かわいいひと。




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