「浮竹ぇ」
「なんだ」
「はいこれ、どうぞ。ボクからのお年玉みたいなものかな」
「ありがとう。開けていいか?」
「もちろんだよぉ」
「…………またこれか」
「久しぶりにね。たまにはいいだろう?」

 京楽に渡された包みを開封して、浮竹は大きなため息を吐いた。中身は真っ赤な振り袖、金銀の糸や刺繍が贅沢に敷き詰められた豪奢な一品だ。お前も本当に酔狂だよなあとぼやきつつ、その振り袖を摘み上げた。
 で、俺はこれを着ればいいのかと京楽に聞くと当たり前じゃないとの返事。キミに着てもらおうと思って用意したんだしさ、ボクが用意した綺麗なおべべを着た十四郎を見せておくれよと盃を傾ける。まったくこんなおっさんにこんな綺麗なおべべを着せて何が楽しいんだかと悪態をつきつつ、京楽の目の前で浮竹は着替えをする。羽織を脱ぎ落として、着物も脱ぎ捨てて、京楽に贈られた襦袢と振り袖を身にまとう。その様子を、目を細めた京楽がじっと見ている。特に恥じらいを見せることなくさっさと着終えた浮竹は、これで満足かと座り直した。

「うん、ボクの見立て通り、よく似合ってるよぉ、浮竹」
「そうか」
「ただ、座り方はちょっと考えてほしいかなって……いや、キミらしくていいんだけどね、非常に男前で」
「うん? 女座りなどできないぞ、俺は」
「知ってるけどさぁ……まぁいいや。ちょうど徳利も空になったんだ、姫始めと洒落込もうじゃないか」
「やれやれ、やっぱりそうか。ま、やるか」
「決まり。そんじゃ、布団に行くかね」

 浮竹を抱き上げて、敷きっぱなしの布団に向かう。湖に面した雨乾堂は風がよく通って肌寒い。今からあっためあわないと、キミだけじゃなくてボクも風邪を引いちゃうね、新年早々七緒ちゃんや海燕くんに怒られちゃうよと喉で笑って浮竹を布団に下ろし、その上に覆いかぶさる。じじ、と蝋燭が仄かな明かりを灯している。障子から差し込む月光が白く靄をかけたように布団を照らしていた。

「……やっぱりキミには赤が似合うねぇ」
「血、以外もか?」
「むろん。ま、ぼかぁキミを彩るなら血なんかよりも紅を使いたいね、持ってくればよかったかな。キミの目尻や唇にさっと引いてさ」
「はは、女扱いか。年増が生娘の真似事なんぞしたって苦しいだけだろ」
「キミは例外さ。ひどく似合うんだろうね」
「またお前はすぐそんな戯言を。そんな戯言をぬかしている暇があったらとっとと始めないか、寒くていよいよ風邪を引いてしまいそうだ」
「そうだねぇ。んふ、積極的な浮竹も悪くない」
「今さら最中以外で何を恥じらえっていうんだ、やることはずっと同じだろ」
「やっぱ、キミは今年も男前だね」
「おう。お前がせっかくこれを着せて愉しんでるんだ、俺がもっと愉しませてやろうと思ってな。俺の痴態が見たいんだろ、いいもの見せてやるよ、……春水」

 にんまり笑んだ浮竹は京楽の首に腕を回して引き寄せる。京楽の眼帯にそっとくちづけて、唇の弧を深める仕草は相当妖艶だ。誰がこんなふうにしつけちゃったんだろ、あ、自分かと自問自答して、京楽はその口元に誘われることにしたのだった。
 振り袖が重力に従ってぱさりと落ち、浮竹の白い腕があらわになる。お前の髪がもじゃもじゃだとおかしそうに笑う浮竹に、参ったねこりゃ、と口癖を呟きながら、京楽はその袷に指をかけた。


120101



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