人気バンド、ガリューウエーブのボーカリストとギタリストが熱愛中!?

 そんなゴシップ、一度でいいから叩かれてみてぇなと思っちまったことがある。そんでインタビューでオレは響也との大恋愛をブチまける。ゲイだから何だってんだ、オレたちは付き合ってんだって。スカッとするだろうよ、響也を追っかけてる女子どもに堂々とオレのもんだって宣言できるんだから。まあスキャンダルどころじゃないので実現はしなくていいけど、夢見ちまった。

 実際オレたちは熱愛中。秘密裏の交際ってワケ。あいつと組んでからバンドメンバー、そっから相棒、恋人同士にステップアップした。
 響也は気さくな王子様キャラだが、実際もわりとあんな感じだ。もともとヘテロだった響也がオレと付き合ってるという夢みたいなことをオレはしている。まあその気さくさにオレはイラついたりもするが。王子様の浅薄な誠実ってやつかねと疑っちまう。ちゃらちゃらした外見とは裏腹にうっとうしいほどまっすぐなヤツってことぐらい、オレが誰よりも知ってるのに。

「ダイアンはサメみたいだ」といつか響也は笑って言った。ファッションのせいっていうか、なんか、それ以外でもダイアンってサメみたいと要領を得ない言葉で。
なんだよそれ、とオレは笑って返した。サメモチーフがただ好きなだけで、名前のどこもサメにかすっちゃいねえ。サメ肌ってわけでもねえしな。オレは響也を傷つけたりしなかった、セックスのときでさえ。

 サメが泳ぐ海はただただ大きい。深くなくていい。ただただ大きくて広い海を、サメは泳ぎ続ける。嫉妬でどうにかなってしまいそうなオレはその海を漂うだけだ。だんだん沈みながら。
 でもオレはその海から抜けだそうとはしない。なすがままだ。抜けだすすべも知らない。この嫉妬がなくなる日なんて結局は来ねぇんだから。
 響也がいる限り、オレの嫉妬は消えやしねえ。響也が微笑を向けるすべてのものに対して妬み続けるんだから。あの歌姫や弁護士じゃなくたって、な。ガリューウエーブファンへ響也が振り撒くあのスカした笑顔だって、オレはそれを間近で見ているくせに、オレだってファンサービスの一環として投げるくせに、それがオレだけに向けられてないという理由だけで気に食わない。

 知っているか響也、オレはオマエを嫌いになったんじゃない。オレなんかを恋人にしてくれたオマエが好きだったんだ。オレが求めたオマエの愛を、オレに与えてくれたオマエのことが。
 手に入るはずないと思っていたものがいざ手に入ってしまえば、欲が生まれてしまう。オレは貪欲にオマエの愛を求めた。オマエが歌うラブソングよりも情熱的で、オマエが誰にでも軽々しく言う「好き」という言葉よりも重いもの。オレのなかにある海をすべて押し流して埋め尽くしてくれるほど。
 でもオマエは、もうオレだけのオマエじゃなくなっちまったんだろ。いや、最初からそうではあったが。オマエは最近、オレといるときだって上の空だ。口を開けばラミロアさんがね、だのオデコ君がね、だの。オマエの音楽好きは重々承知しているが、オレといるときに他のヤツのこと言うんじゃねえよ。ガリューウエーブだけならまだ我慢もできるが、最近オマエはあの歌姫のおばさんにご執心だ。ついでにあのでこっぱちの新人弁護士にも。気に食わねえ。もうオレの我慢は限界だ。この嫉妬の海が荒れている。

 ならイケナイコト、しちまおうか。何、ちょっとした火遊びだ。うまい具合にボルジニアのマユが転がってて、ちょうど司法長官の息子がチリョーレス症候群。金なんざどうでもいいが、いい感じのステージがしつらえられている。
 そんならセッションとしゃれこもうぜ、相棒。バレやしないように予防線はたっぷり張ってある。オマエは気づいてくれるなよ、オレの憂さ晴らしなんだから。



大きな大きな嫉妬の海にて



120323



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