「誓わせておくれよ」
「……何をだ?」

 嘘、何を誓いたいのかはもう分かっている。今さら確認するまでもない。


 いつになく弱々しい京楽が、ふらりとやって来て浮竹の腕の中に倒れ込んだ。
 おいっ、どうしたんだと当然浮竹は慌てた。いつも飄々としている京楽が弱っているだなんてめったに見られる光景ではない。京楽は何も言わなかったが、かっちりと着込まれた私服から匂う香や豪奢な食い物で何となく浮竹は察することができた。

「…見合いに行ってきたのか」
「うん、騙されちゃったよ」
「そうか」
「嫌な予感がしてたんだけどね、行かなきゃ行かないでまたうるさいから…」
「そうか」
「まさか部屋入ったとたんに先方を紹介される上に逃げ道塞がれるとは思わなくてね」

 聞いたわけではないのに、言い訳じみた弁解を京楽はする。
 京楽が見合いをさせられるのはいつものことだった。最初のうちは疑ったり悶々したりしたが、今はもう気にしてもしょうがないと言う体勢を取っている。腐っても相手は上流貴族の次男坊、自分とは生きてきた世界が違うと割り切り、京楽が囁く愛を信じるようになれたからだ。
 けれどこうして京楽が、見合いについていちいち報告してくるのだけは嫌いだった。娘たちは自分にないものばかりを持っている。どんなに自分が京楽に与えたいと願っても、決して与えられないものだ。引け目をありありと思い知らされる瞬間はうんざりだった。
 見合いに行くなら行けばいい。だが、自分にはそのことを全く知らせないでほしい。報告も何もいらない、存在すら知りたくなかった。


 そして始まりに戻る。


「ボクたちの愛を」
「またか?」
「うん、何回も何回もこうして確認したくなるんだ」
「…それは、普通の…では駄目なのか」
「駄目だよ」

 キミは無理に誓ってくれなくていい、ただボクがキミに誓いたいんだ。何度だってキミに誓うよ、そうしたらボクの自己満足だけど誓いがどんどん積み重なって強固になれる気がするんだ。
 ……ったく本当に、と浮竹は心で溜め息をつく。見合い報告の最後に、京楽は決まって誓いと称したくちづけをしてくる。されるたびにがんじがらめに縛られる気がするが、それに安心してしまう自分がいる。俺もずいぶん女々しくなったものだと自嘲して、浮竹はそっと目を閉じた。




誓いの、キス
(何度もやり直す誓い)



090402


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -