(R15程度の描写あり)


ベッドの上に、二つの影が折り重なっていた。
暗い部屋に二人の荒い吐息が響いている。程よい疲労感と充実感に満足したように安室はゆるゆると頬を緩めた。
目の前の額に軽く唇を落として身を起こそうとしたが、渚は離れがたそうに、安室の首に回していた腕を放そうとしない。濡れた睫毛が震える様を眺めて、瞬いた蒼の瞳が悪戯っぽく細められる。
先程までも充分に堪能していたその柔らかな唇を掠め取るようにして重ねた。二度、三度とリップ音を鳴らし、ようやく顔を離す。幸せそうにこちらを見つめるその瞳を見ていたら、堪らなくなってもう一度その唇に自分のそれを押し付けていた。

「……は、」

離したと同時に空気を取り入れる仕草さえもそそられる。それを楽しげに見下ろしながら、安室はようやく渚の横に寝転がった。
安室の姿を視線で追う彼女を引き寄せ、自分の胸の中へ導く。大人しくそれに従いながら、ぼんやりと安室の胸元に視線を落としていた渚が、そこについ、と指を這わせた。
白く細い指が安室の肌に触れる度妙な気分になるのだが、きっと彼女にそんなつもりはないのだろう。

「…何やってるんです、人の体をつついたりして」
「え?」
「もしかしてまだ足りませんでした?」
「ち、違、そんなんじゃ…!」

安室の指摘に、顔を真っ赤にして首を振る渚をその瞳に揶揄の色を含ませながら見つめる。

「余所事に気を取られてるのは正直面白くないですが」
「そんなんじゃ、なくて。…ただなんとなく、ここに黒子があるんだなーと思って見てたと言うか…」
「黒子?」

渚の指差した場所を見下ろせば、確かに。だが黒子が何だと言うのか。再び渚に視線を戻せば「だから何となくって言ったじゃないですか」と居心地が悪そうにしている。
そう言う彼女にも、当然黒子の一つや二つある。お返しとばかりにそこに指を這わせれば、渚は一瞬肩を震わせてきゅっと眉根を寄せていた。
…なるほど、悪くない反応だ。

「…あなたのことなら何だって知っていたい」
「安室さん?」
「どんな些細なことだって。…そう、それこそあなたの体に刻まれた黒子がどこに、いくつあるのかさえも、ね」
「は?いきなり何言って…んっ」

試しに最初に目についた黒子に、一つ唇を落としてみる。吸ったりはしないが、わざとリップ音を響かせて離してみれば、分かりやすく渚の頬は赤く染まっていた。

「ここに一つ、それからここにも…」
「や…っん、ちょ、安室、さん…っ!」
「三つ、四つ、五つ…」

数える度、合間にちゅ、と口付ける音。跡こそ付けないものの、見つけた黒子全てに唇で触れていけば、渚は手のひらで堪えきれない吐息を覆い隠していた。その手を浚い、シーツに縫い付ける。

「だめ。声、聞きたい」
「や…っ」

そんな赤い顔で、濡れた瞳で。睨まれたところで逆効果でしかない。目を細めて、再び安室は渚の胸元にある黒子に口付けた。思わず強く吸ってしまった。ようやく整ってきていた渚の呼吸が、また徐々に荒くなりだす。

「ねえ、渚さんも僕の黒子、数えてくれませんか?」
「え…?」
「僕があなたの全てを知りたいように、…できることならあなたにも僕の全てを知ってほしい。ほら、ここにも、ここにだって。ねえ、数えてくれませんか?」

全てを知りたいという以上に、全てを知ってほしいと願うのはとんでもない独占欲なのではないか。掴んだ彼女の手を導き、自分の胸に這わせる。その指で黒子に触れさせる。
全てを知ってほしい。ねぇ、と改めてその耳元で囁けば、渚の指がそっと安室の胸元にある黒子へと伸びた。

「…ここと、ここと…あと、そこに…」
「…っ」
「ね、ねえ、なんかこれ、恥ずかしいんですけど…」
「…僕は恥ずかしくないです。いいから、続けて」

促せば、戸惑いながらも再び渚は安室の体に指を這わせた。いち、に、さん。安室に言われた通りに数えてくれる様さえ愛しい。じっと大人しくしていたが、堪らずその腕に顔を近付けた。

「ほら、ここにも…」
「ひゃっ…!」
「ふ…渚さん、知ってます?実はこんなところにも黒子があるんですよ」
「えっ、嘘、…っん…!」

続けて順々に、柔らかく唇で食んでいく。渚の体を反転させ、その背に、腰に、唇を落とした。カウントは徐々に増え、その合間にリップ音を鳴らすことも欠かさない。上から下へ、全身くまなく唇で触れていく。
普通なら見えないところだ、彼女自身ですらきっとこんなところにある黒子の存在に気付いてはいまい。自分しか知らない、そんな優越感に口元を緩ませた。

――そしてついに安室の知りうる最後の黒子を吸い上げ、ようやく満足したように顔を上げた。
熱い吐息を吐き出しながらこちらを睨む姿は、むしろ逆効果でさえある。身を起こして、再び渚を組み敷く体勢になった。

「…それで、僕の黒子はいくつありました?」
「…数なんて途中で分かんなくなっちゃいましたよ!」
「おや、酷いですね。僕はちゃんと数えきったのに。…今度はちゃんと最後まで数えてくださいね」

そう言いながらも、すっかり硬さを取り戻した自分自身を渚に押し付ければ、分かりやすく彼女は顔を朱に染めあげている。
ちゃんと数えてくれないと止めてあげませんから。笑いながらそう囁いたけれど、本当はそんなことはただの口実でしかないことは自分が一番よく分かっている。

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