7日目!

少し見慣れた起き抜けの景色も今日で見納めだ。
日課の黙想とヨガを終わらせてからキッチンに入り今日のメニューを眺めてから気づいた。
この前のキムチがまだ余ってるんだった。
自分で買い入れた物は使い切ってしまいたいけど、今日の洋食メニューにキムチを加えても事故にしかならない気がする。
こんなことならご飯炊いておけばよかったな、申し訳なく思いながら食材を確認すると食パンはないけどロールパンはあった。
メニュー変更を決めて一応変更の伺い立てをしておこうと1階の爆豪君の所に向かう。

ちょうどひと段落してタオルを手に汗を拭いていた爆豪君は私に気づいて、はよ。と声をかけてくれた。
私も挨拶を返してから用件を手短に伝える。

「朝ご飯をロールパンでピザトーストみたくして良いかな。前と被るけどキムチを使い切りたくて」
「元のメニューは?」
「ハムチーズパンケーキとポテトサラダとコーンスープ」
「……メイン以外先作っとけ。手伝ったる」

私の返事を聞かずに上へ向かう彼の背中を慌てて追いかける。

「えっいいよ!まだ途中でしょ」
「1日くらいはよ切り上げても影響ねぇよ。それよかビザトーストの気分じゃねぇ」

シャワー浴びる。そう言い残してさっさと個室へと消えてしまった。
もう彼の中では決定事項となってしまったらしい。
これは言われた通りにしてないと機嫌を損なうパターンだなと予測できたので大人しく他の料理を済ませていく。
ほどなくして隣に立った爆豪君はホットケーキのタネを3つに分けてそれぞれにハムとチーズ、キムチとねぎ、コーンをまぜて多めの油で薄く焼いていく。
チヂミもどきの完成だ。

「……おお」
「なんだよ」
「いや、上鳴君の言葉思い出して」
「あ?」
「料理の腕まで才能マンなんだな、と」
「お前もそう変わらんに才能も何もねぇだろ」
「へ」

そう言ってテーブルへと料理を運ぶ爆豪君の背中をほけ、と見送ってしまう。
今のって、料理の腕を認めてもらえた、ってことだよね。
なんだこれ、下手に褒められるより嬉しいって、普段の会話がほぼ罵声な人からの言葉だからか、これもギャップというやつか。

「何してんだ、さっさと食うぞ」
「っ!!あ、はい、食べる!」




午前中のスケジュールをいつも通り終えて、軽く昼食をとり、爆豪君と一緒にベストジーニストと向かい合う。

「最後の総仕上げだ。ルールは前回と一緒、全力でかかってこい」

どちらかがベストジーニストに触れれば勝ち、2人とも行動不能になったら負け。
爆豪君を見るとすでにこっちを見ていたようで目が合い、小さく頷けば口端を上げて応えてくれた。
深呼吸、それから折り紙千枚4つの群を猛進させると同時に爆豪君が飛び出した。

20分後。
大きな芋虫一匹が天井からぶら下げっていた。

「上手く線維に対応してきたな、戦闘での順応性の高さは流石だ」
「……」
「はい……あの、」
「前半の妨害担当がオリガミであくまで後衛だと思わせていたことも見事」
「…………」
「あ、ありがとうございます。……あの、すみませんが、」
「ただ、紙を爆発して目くらましにするのはイマイチだな。有限な―――」
「べ、ベストジーニスト!」
「うん?」
「こ、講評は、その、降ろしてからお願いできませんか?!」
「………………」

出来上がったのは芋虫一匹、私と爆豪君はまとめて拘束されている。
ベストジーニストが別々に拘束する余裕がなく、前回より追い込むことができたということで、それは良いことだ。
良くないのは、爆豪君との距離感だ。
一緒にぐるぐる巻きにされているせいで距離感ゼロというか、マイナスというか、抱きしめられてるというか……!
恋愛経験無しの私に男子とのこの距離は色々無理です!!

「あぁ、すまない、配慮が足りなかったな」
「い、いえ……」
「……………………」

やっと降ろしてもらったけど、気恥ずかしさと何故か無言の爆豪君が恐ろしくて、講評が終わり各々荷物のまとめと掃除が終わるまでまで爆豪君を見れなかった。

事務室に向かうと、今日お休みのはずのサイドキックの皆さんも挨拶のために来てくれていた。
それぞれから励ましと別れの言葉を頂いてからベストジーニストに向き合う。

「この一週間よく頑張った。オリガミは瞑想をしっかり続けるように。君は硬いというか真面目すぎるところがある。君の個性でできることは多い、可能性を広げていけ」
「はい!」
「カツキは個性の使い方については申し分ない。君に必要なのは心の広さや寛容さだ。忍耐や我慢、自分を律することを覚えろ」
「へいへい」
「まったく……これからも精進するように、期待している」
「ありがとうございました!」
「……世話んなりました」
「さて、最後に餞別だ」

そう言って私に渡してくれたのは台紙にはベストジーニストのサイン、しかも名前入り。
フォロワーだと聞いていたからわざわざ用意してくれたそうだ。
嬉しさと共にギュっと胸に抱いているとケッ、とそっぽを向いていた爆豪君が、君は、と聞かれる。

「いらねぇ」
「だろうな、君はこっちだ」

スチャッと取り出されたものを見て思わず爆豪君の方を見るとと口が引きつっていた。
あ、眉間もすごいことになってますね……。




「サイっアクだ……!」
「ベストジーニスト、今までで1番気合入ってたもんね」

新幹線で思いっきり悪態をつく爆豪君の髪はペッタンコ8:2となっている。
あれからお土産を買って新幹線を待つ間に何度もクシャクシャと髪をいじっているけれど、すっかり癖がついてしまったのか戻ることはなかった。
思えば初日から矯正されてたもんな。

「クソッ、最初っからふざけたことしやがって」
「!あは、今同じこと考えてた」
「っ!!……そーかよ」
「あっという間だったね、一週間」
「クソつまんなかった」
「あーまぁ期待してたヒーローっぽい活動は少なかったね」
「お前はひったくり捕まえただろ」
「それ言ったら爆豪君、迷子保護したじゃん」


「マナー講座で冠婚葬祭は分かる、けど……お見合いのマナーって必要だったのかな」
「……そういう話が来るってことじゃねぇの」
「うわぁ、想像できない」
「…………興味ねぇんか」
「うーん、ないわけじゃないけど、後回しでいいかな」
「ふーん」


「にしても悔しいな、爆豪君にもベストジーニストにも負けっぱなしだ」
「次は負けねぇ」
「だね。……個性の可能性か。とりあえず、できることをさらおうかな」
「聞きたかったんだけどよ、紙に自分乗せて運べねぇのか」
「懐かしい、小さい時試したことあるんだ。でも紙の強度だとね……」
「……今あれだけいっぺんに操れんなら、紙の折り方なり重ね方なりでどうとでもなるだろ」
「……一枚の板をイメージする感じ?」
「いや、それよりも―――」


なんだかんだと一週間を振り返ったり、個性の使い方やレポートの相談をしている内にあっという間に降りる駅に到着した。
改札口を出て電車に乗り換えて帰る爆豪君とはここでお別れだ。

本当に濃い一週間だった。
うまく言えないけどイベントが終わった後の非日常から日常に戻る感じ。
ちょっと寂しいな、と思いながら爆豪君に声をかける。

「一週間、本当にありがとう。お世話になりました」
「……これで終わりみてぇな言い方してんじゃねえよ」
「え」

無表情に近い、真剣な顔で真っ直ぐこっちを見ながら言った声は小さいながら、はっきりと耳に届いた。
一拍、二拍、交わされていた視線は、爆豪君から逸らされて。

「明日からも会うだろうが」

さっきより大きな声のそれはぶっきらぼうで、少し拗ねたような声音だった。
その言葉で私が爆豪君とは職場体験中だけの、期間限定の仲の良さだと無意識に思っていたことに気づいた。
私が気づく前に気づいて、それを否定してくれた爆豪君に思わず笑顔になる。

「うん、そうだね、また明日からもよろしくね」
「おう、じゃあな、っ……綾取」
「バイバイ、爆豪君」

改札に消えていく背中を見ながら思う。
この一週間の収穫の1つは、爆豪君の人となりを知れたことだ。
目つきが悪いだけで睨まれているわけではないこと、意外とまともに会話ができること、意外と優しいこと、キレるタイミング……は未だにちょっと謎だけど。
少なくともクラスメイトとして付き合っていけそうだと分かっただけで良い一週間だったと言える。
本当に充実した一週間だった。
いい出来になりそうなレポートの構成を考えながらバス停へと向かった。

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2017/09/13



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