6日目!
豚の野菜巻きに舌鼓を打ちつつ、爆豪君の質問を反復する。
「お昼ご飯?」
「あぁ、もう決めてんのか?」
「ううん、まだだよ」
お味噌汁をすすりながら聞き直した彼に、ご飯を口に運びながら首を横に振る。
ご飯を食べ終えた爆豪君は、よし、と頷いてから、うさぎリンゴに手を伸ばす。
「今日、何もすんなよ」
「今日何かあったっけ?」
「何もねぇ、良いから基礎トレ終わったら待ってろ」
はて、と思いながら今度は首を縦に振る、あ。
「おひたし、おいしい」
「そーかよ」
言われた通り、座学の復習をしながらテーブルで待っていると、いい匂いがしてきた。
ワクワクしていると、出来たぞ、と声がかかり運ぶのを手伝った。
テーブルに並ぶランチを見て思わず笑顔になる私を、爆豪君は鼻で笑う。
「ご機嫌かよ」
「いやこれは笑顔にもなるよ!見事に私の好きなのばっか!」
キノコいっぱい、厚切りベーコンも入った和風パスタ!
冷製トマトスープにアボカド生ハム巻き、理想のランチすぎる。
「うわ嬉しいな……でも、なんで?」
「……昨日の。詫びと礼だ」
昨日の組手、私が言い出したってバレてたんだ、いや料理してくれた理由も聞きたかったんだけどね。
私が今聞いたのはそっちじゃなく。
「私、爆豪君に好きな物言ったっけ?」
「!いや、それは……あれだ。よく食ってんだろ」
確かに食べる頻度は高いけど、把握されているとは思わなかった。
他人に興味ない感じなのに意外と見てるんだな、感心しながら有り難く頂いた。
味はもちろん、文句なし。
職場体験最後のパトロール。
ベストジーニストがファンと握手したりサインをしてあげたり、いつもと変わらない時間を過ごし、最後の公園に差しかかる。
その入り口から飛び出してきた人と思いっきりぶつかってしまった。
「わ!」
「ぁっ?!あぁっすみませんっ!」
二十代後半くらいの女性に、こちらこそ、と声をかけようとしたが、真っ青な顔を見て言葉を変える。
「大丈夫ですか?顔色が良くありませんが……」
「え、いえ!私はいいんです!それよりっ……あ!!ベストジーニスト!」
ひどく慌てた様子の女性は何かを探すようにさっと周囲に滑らせた目がヒーローの姿をとらえた途端に駆け寄りすがりついた。
「お願いします、一緒にっ娘が見当たらなくて!」
「え?!」
「大丈夫です。私たちが協力します」
ベストジーニストの力強い言葉に女性はあっという間に平静を取り戻していく。
守る側と守られる側の信頼ってこういうことなんだろうな、と思いながら女性の話に耳を傾けた。
ユウミちゃん、4才。ストレートロングの髪を黄色いリボンで髪をひとつ結び。黄色いワンピースにピンクの靴の女の子。
母親であるワタリさんがお手洗いに行っている間に公園から姿を消してしまったらしい。
人見知りなため誰かについて行ったとは思えないと。
事件性があるともないとも言えない状況なため、ベストジーニストが捜索を続けて、私は母親に付き添い警察に行くことにした。
「……」
「……大丈夫です」
「え?」
落ち着いたとはいえ顔は真っ青なワタリさんと無言で警察を目指していたけれど、彼女に、何か声をかけてあげたい。
ベストジーニストみたいに大丈夫だと思わせる重みはないけど。
「ベストジーニストが全力で探しています。私達が必ず見つけ出します」
オールマイトみたいな絶対的な安心を渡せないけど。
「ユウミちゃんもきっと、ワタリさんの元に帰ろうと頑張ってると思います」
あの夜、爆豪君にもらえた言葉みたいに、
「だから大丈夫、信じてください」
心を支えてくれる、今の私が送ることができる、精一杯の言葉を。
「が、学生が何言ってんだって感じですけどっでもジーニスト事務所の方々はほんとに頼りになるので」
「……ありがとね」
「え」
「母親なのにこんなじゃだめよね、ヒーローを、娘を信じないと、ね」
「!はい!」
顔色は悪かったしぎこちないけど、そう言ってにこっと笑った顔は母親の顔だった。
私が心を支えてもらってしまったな、さっきよりもしっかりとした足取りで警察へ急いだ。
「こんにちは。すみません、迷子の届け出とヒーローの救援申請をおね―――」
「お母さん!!」
用件を言い終わる前にワタリさんへ小さな影が飛び出してきた。
ユウミ!とワタリさんが隙間なく抱きしめている女の子は安心したのか、大泣きだ。
良かった、ハァと溜め息をついたら別の誰かのため息と被って二重奏になった。
ため息が聞こえてきた、ユウミちゃんが飛び出てきた奥から姿を現した彼を見てびっくりした。
「さっき泣き止んだってのに」
「爆豪君!なんでここに?」
「そのガキ見つけたのが俺らだったんだよ」
「そっか、良かった……どこで見つけたの?」
「大通りの電気屋の所」
「……え、その子、1人で3キロ以上歩いたの……?」
「は?」
聞くと、なんとユウミちゃんの個性が初めて発動したらしい。
一瞬だが居なくなってしまった母親を探して父親の個性「瞬間移動」が発動して家の近くまで移動してしまったそうだ。
「道理で話がかみ合わねえわけだ」
「何にせよ事件性がなく、無事で何よりでした」
ベストジーニストに連絡をするとこのまま事務所に戻るように言われた。
電話越しにお礼を言っているワタリさんを見て本当に良かったと思う。
ふとクンクンと爆豪君のズボンを引っ張るユウミちゃんの姿が目に入った。
んだよ、と面倒くさそうに、でもわざわざしゃがんで目線を合わせる爆豪君を見て、やっぱり優しいところあるんだよなと思いつつ見守る。
「あの、おにいちゃん、あり、ありがとう」
「おー」
「ジュースもおいしかったです」
「おー」
「え、えほんもたのしかったです」
「……そか」
「それから、あかあさん、ありがとう」
「あーいや、かあさん連れて来たのはあっちのねーちゃんだ」
「!おねぇちゃん、ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
純真な好意に耐えられなかったのか、乱暴に頭をかきながら私にパスしてきた。
よく見ると耳が赤い、照れるとそこだけ赤くなるんだ、器用ですね。
手をつないで帰る親子を見送ってから、私達も事務所へと戻る。
今日でパトロールも最後だと思うと少し感慨深いような、気がしないでもない。
このジーパンと髪型も明日でおさらばか、あ、そういえば、
「爆豪君、髪型1日中それだったよね」
「あ?……あぁ、そういや」
「癖ついちゃったかな、お互い」
「ざっけんな、意地でも元に戻したる」
「だよねー」
「おう」
とうとう明日は、最終日。
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2017/09/03