1日目!
自分の欲を優先してしまったからバチが当たったのかなぁ。
チラと隣で目を閉じて音楽を聞いている爆豪君を盗み見る。
気まずくて本を手にとって開いてみたけど、目が字の上を滑るだけで内容全然入ってこない。
初日の個性把握テストの死ね発言や、初めてのヒーロー基礎学のヴィランっぷりなどを見ていて、あ、これは距離を置いておいた方が平和だと判断した。
それから普段の授業態度とか男子と会話してる様子とかを見てて、あ、一応話が通じる相手なんだなと分かったけど。
ここ最近、気のせいじゃなかったら爆豪君に見られている、というか睨まれてる。
なんかしたっけ?!と思い返しても心当たりはないし、話した回数は両手で足りてしまう。
緑谷くんに対する、いるだけでムカつくんだよ!的なことなんだろうか、何それ理不尽。
いつ理不尽なヤキ入れがくるのか、内心かまえていたんだけど、荷物持ってくるし、新幹線の席も窓側が良いか聞いてくれて譲ってくれたし。
かと思えば、わけ分からんところで怒鳴られるし。謎だ。
この一週間で爆豪くんの扱い方が分かれば良いけどなぁ。
もう1度チラと盗み見ると向こうもこっちを見ていてバチッと目が合った、と脊髄反射でバッと目を逸らして窓を見る。
景色が目に入ってから気付いた、今めっちゃ態度悪かった、よね。
キレてないかなぁ、そろぉともう1回爆豪君に目だけ向けると、はた、とまた目が合った。
さっきのことがあるので目を反らさずそのままでいると爆豪君も私を見たままだ、というか固まったままだ。
「……」
「……」
「……え、と、職場体験楽しみだね」
「……おう」
へらぁと、少しぎこちないのは許してほしい、笑いかけると爆豪君は小さい返事の後にそっぽを向いて頬杖をついてしまった。
気、ま、ず、い、よ〜!
残り3時間とちょっとか、心の中でため息をついた。
都内の一角、ベストジーニストの事務所、ジーニスト。
到着して軽く挨拶した後、さっそく着替えるように言われて案内された個室で戦闘服を取り出す。
毎年、学生を迎えているこの事務所では学生のために一室を貸してくれるそう。
遅刻する心配がないのはありがたいなぁ、と思いながら事務室をノックして入ると、
「君の身体にそれらを縫いつける」
爆豪君が拘束されてた。何事?!
呆気にとられて入り口で固まっていると、サイドキックさんが気付いて声を掛けてくれた。
「ああ、来たね。自己紹介をしてもらっていいかな」
「は、はい。英雄高等学校1年A組、綾取紙衣です。ヒーローネームはオリガミ、個性は“紙操作”です。一週間よろしくお願いします!」
憧れの人を前にして、声が裏返らないように気を付けながらイメトレ通りに言えたことにホッとする。
「イレイザー・ヘッドから聞いている。私の個性と近い部分があるからみてやってくれと。短い間だが、精一杯伝授しよう」
「!はいっ、ご指導お願いします!」
「ではさっそく、君たちの実力を知りたい。移動しようか」
2階の事務所から3階の高防音、高耐衝撃のワンフロアに私と爆豪君、ベストジーニストで向かい合う。
「2人でかかってきなさい。いつでもどうぞ」
ルールはベストジーニストの身体どこでも2人のどちらかが触れたら勝ち。
2人とも拘束され行動不能になったら負け。
授業で爆豪君と組んだ事があり、その時の相手は瀬呂君・常闇君だった。
きっとその時の作戦が今回もベストだ。
爆豪君の方を見ると、正面を見て構えていた彼が目線だけをこちらに向けて小さく頷く。
私も頷き返す。
次の瞬間、BOOOM!、音と共に飛び出した爆豪君に合わせて白い折り紙1万枚を操り、空へと舞わせた。
10分後。
見事に宙吊りにされている芋虫二匹が出来上がった。
「くっそが!!」
「分かってたけど、悔しいね……」
「2人とも課題は多いがなかなかの動きだ。今の組手の反省点、改善点をまとめて明日提出するように。動画を撮っているから必要なら後で渡そう」
シュルシュルとゆっくり降ろされながら、欲しいですと答える。
爆豪君はんなもん……!と噛みつきかけてぴたりと止まった、私を見て。
はて、と爆豪君の様子に首を傾げていると、ぐ、と何かに耐えるようにしてから、いると呟いた。
意外だ、動画が無くても課題は完璧にこなすだろうし、自分が負けた動画とか絶対いらないだろうと思ったのに。
「……さて。これから1週間、2人は私の部下だ。私の指示に、この事務所のルールに従ってもらう。まずはこれに着替えてもらおうか」
ベストジーニストから渡されたのは、真っ青なジーンズだ、それもピッチリの。
うわぁ、本当にこの事務所に入ったみたいで嬉しい!けどこれ似合わなかったらダッサイやつだ!
やはりというか、爆豪君は気に入らないらしい。
だろうね、制服は腰パンしてるし、戦闘服のズボンもゆるめだし。
「こんなダセェの着れっか!」
「(否定できない)で、でもルールだし、ね。それに私は(皆さんと)おそろいで嬉しいし」
「!……そ−かよ」
「うん、爆豪君だったら足長いから似合うと思うし」
「っ!!」
「1週間だけだもんね」
「しゃ、しゃーねぇな、1週間だけだ!我慢してやらぁ!」
意外と褒められると弱いのかなと思いながら、奪うようにジーパンをとって個室へと向かう爆豪君を追いかける。
履いてみたけど、やっぱりパツパツだ、足太いの分かるの嫌だなぁ。
トボトボと足取りを少し重くしながら事務室に戻ると、
「つまり、これがそうさ」
爆豪君の髪がペッタンコにされてた。何事?!そしてダサい!!
再び固まってしまった私に、ベストジーニストが気付いて、爆豪君と交代で座るよう指示される。
え、これ、もしかして、私も髪されちゃう感じですか。
あのベストジーニストが私の髪を触っているという事実にドキドキして真っ赤になったり、爆豪君みたいにされちゃうのかとげっそりしたり、その爆豪君が体育祭の表彰式ばりの顔でこっちを睨んでいるのを見て真っ青になったり私の心中は忙しかった。
そんな私や爆豪君にかまわずに、ベストジーニストはヒーローの社会でのあり方、一週間のスケジュールの説明をしていく。
その後、おそろいのジーパン、8:2髪型で周辺案内を兼ねてパトロールをしてその日は終了した。
「なんかペアルックみたいにされちゃったね」
「……くっ」
「えっ爆豪君大丈夫っ?どうしたの?」
事務所に戻ってから、お互い辛いねって意味を込めて苦笑いしたら、手で口を覆って苦しそうにうつむいた。
背中をさすりながら下から覗き込んだ顔は赤くて、今度は胸まで押さえだした。
困惑していたところに一部始終を見ていたらしいサイドキックの方々が大丈夫だろ、と声を掛けてくれた。
「1日目からバタバタしたもんな、ちょっと疲れただけだろ」
「うんうん、今日は夕飯もこっちで用意してやるからゆっくり休みな」
「……っす」
囲まれながらぽんと肩を叩かれている爆豪君は、確かにもういつもの不機嫌顔だ。
「良かった、本当に何かあったらちゃんと言ってね」
「おう。……あんがとな」
「!ううん」
爆豪君、普通にありがとうって言うんだな、ちょっと嬉しいびっくりだ。
2人で皆さんに挨拶をして見送られて事務室を後にした。
その時の皆さん、何だろ、最初から優しかったけど、なんか微笑ましいものでも見てるような…?
まぁ、いいか、よし、課題するぞー。
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2017/08/19