Epilogue

久しぶりの授業、ヒーロー基礎学。
遊び要素を取り入れたレスキュー訓練の1組目が今ゴールした。
怪我が完治していないにも関わらず、参加を希望した飯田天哉。
職場体験の出来事で改めて本物のヒーローを目指す決心をした目に宿る火は昏い色を無くし、覚悟と熱意に燃えていた。
飯田に良い変化をもたらした一週間は、例の2人にも変化をもたらした。
……それは劇的に。

2組目、青山、麗日、上鳴、峰田、爆豪、そして綾取。
緑谷の動きを見て機嫌が急降下していた爆豪に何の気負いもなく声をかける綾取に気づいた者が目を見開く。
そして、不機嫌は隠さないままだったがキレもせず受け答えする爆豪を見ていた者は目をひん剥いた。
また、自身を紙の上に乗せて移動するという新技ともいえる個性の使い方を披露した綾取は2位という成績を残した。
その考案のお礼を1位通過の爆豪に言っているのを聞いた者が目玉を落としかけた。

……何があった?!?!

皆の心の疑問の答えを得るべく、爆豪の恋見守り隊、聞き込み担当(切島、蛙吹)が切り込んでいったところ、

「こう、爆豪君と私だけがアウェイな環境だったし、一週間会話無しでいるわけにいかないから何でもいいから話しかけたら意外と話しやすかったんだ」

「向こうが声かけてくんだから無視するわけいかねぇし……嫌でも用ができんだから話さなきゃしょうがねぇだろうが」

ショック療法、荒療治、習うより慣れろ。
無理やり物理的な距離が縮まり、それに付随して精神的な距離も縮まったようだ。
マイナススタートだったことを思えば大きな進歩といえる。
とはいえ、挨拶すらまともにできない2人から、時々雑談ができる2人となっただけ。
恋愛レベル1の爆豪はもっと距離を縮めたいと考えても、攻めあぐねているようで。
行動して関係が悪化するより、現状の会話ができる嬉しさを維持したいというどこの乙女だという思考のせいで爆豪の恋愛成就はほど遠い。

見守り隊の解散はまだ先だろうな、そう隊員たちが報告しあっていたのだが。
ある日、大きな進展、というか事件が起きる。
それは後に「ぽろり告白事件」と呼ばれることとなる。
 



放課後、綾取が上鳴と芦戸に英文法の解説をしていると葉隠が加わり切島と瀬呂が便乗して爆豪が巻き込まれてプチ勉強会となった。
上鳴と芦戸のたぶん分かった!が解散の合図となり、ノートや筆記用具を片づけながら、雑談の話題が勉強の仕方から頭いい人が彼氏が良いという話になる。

「こういう時にささっと鼻にかけず教えてほしい!」
「なんか今日1日ですげー賢くなった気ぃする」
「気ぃだけだろ」
「分かる!優しくて、ついでに運動できるとなお良し!」
「どーせその後ろに、ただしイケメンに限る!がつくんだろー」
「いや、今ならイケる!」
「いいじゃん、理想は高く!あ、ねぇねぇ紙衣はー?」
「っ、」
「(爆豪、分かりやすい)」
「んん、顔だって頭だって運動だって、悪いよりは良い方がいいと思うよ」
「そーゆー一般論じゃなくてさー!こう!ないっ?こういう彼氏が良いみたいな!」
「頭使って腹減ったぁ。バクゴーは?」
「……おぅ」
「そうだなぁ、」

綾取は正直なところ、その手の話はあまり興味が無かった。
小学校の頃に初恋はあったが特に行動したわけでもなく、ヒーローという夢を掲げた時にいつの間にか消えていたような儚いものだ。
今は恋愛事はヒーローになれてからでいいやと思っているので理想を考えたことも無い。
だが、芦戸はやけに期待した目でこちらを見ているし、葉隠は肩を揺らして返事を催促する。
何かしら答えるまで逃がしてくれないな、と先ほどまでの会話を思い返して、ついでに何故か職場体験のことも思い返して、あ、思いついて答える。

「一緒にお菓子とお茶を楽しみながら、くだらない雑談に付き合ってくれるような人が良いかな」

紙衣のお菓子って和菓子だよね。うん。どっか寄るか。甘党な人が良いんだ。そうなるかな。俺金あったっけ。
皆が好きなように会話をしていた中、その呟きは隙間を抜けるように、その声はいやに響いて全員の耳に届いた。

「そんなん、お前がカノジョになったら毎日してやるよ」

思わず、つい、無意識に、我知らず、故意なく。
本当に、ポロリ、と。
思ったことが口に出た、それに爆豪が気づいたのは一瞬で静かになった周囲を訝しんでそらしていた目線を元に戻すと全員が自分を凝視していることを認識したからだ。
我に返って耳まで真っ赤になった爆豪の行動は速かった。
とりあえず両隣にあったもの(切島と上鳴の頭)を爆破して、

「忘れろ!!!!!」

最大肺活量で叫びながら、最速爆速ターボで走り去った、というか逃げた。

『………………』
「…………とりあえず、帰るか」

何とも言えない微妙な雰囲気の中、切島の一言で帰宅のために動き出したがほぼ無言だった。
あの、恋愛話好きな芦戸でさえ、綾取に声をかけずそっとしていた。
綾取の顔が、いっそ可哀そうなほど、真っ赤だったからである。



次の日から表面上はいつもの1年A組だった。
爆豪はあの場にいた綾取以外のクラスメイト1人ずつ懇切丁寧に脅しと暴力と威圧でもって口封じを行った。
綾取は去り際の爆豪の言葉は自分に向けられたものだと理解していたので、希望通り忘れる努力をすることにした。
見守り隊の情報網(ライングループ)により事件はクラスに知れ渡っていたが不変を望む2人のために口にする者はいなかった。

このまま時だけが過ぎていくのだろうか、歯痒い思いの中、綾取がある決心をして動いたことに気づいたのは本当に偶然だった。




ある放課後、玄関へ向かう障子の耳に「で、話って」聞き覚えのある声を空き教室から拾った。
思わず足を止めて共にいた峰田、八百万、耳郎に静かにするように促したのは反射に近かった。
不思議な顔をしていた3人も「忘れろって言われたのに忘れたくなくて」綾取の声に耳を澄ませる。

「その、つまり……私、爆豪君とお菓子食べて、お茶を飲んで、くだらない雑談したいです」
「―――まじか」
「ま、まじ、です……」
「っはーーー、んだよ……忘れろつって忘れるから、てっきり……」
「?ごめん、なんて」
「何もねぇ。……付き合ってやっから、代わりにまた俺に料理作れよ」
「!っうん!」

峰田は妬みで歯ぎしり、八百万は頬を染めて、耳郎はガッツポーズ、障子は拍手しそうになって思いとどまる。
緊張が切れて嬉しそうに涙をこぼす綾取と驚くほど優しい声で茶化す爆豪をまだ見ていたいが、これ以上は野暮というものだろう。
今にも突撃しそうな峰田をひっ捕まえて、その場を後にする。

耳郎により朗報は知れ渡り、爆豪の恋見守り隊は今日解散となった。
翌日発足された爆豪の恋からかい隊は、先生まで巻き込んで卒業後も続くことになるのは未来の話である。

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2017/09/15



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