※コミックス内容ネタバレ
※主人公は緑谷の姉です。
※緑谷視点
ピコン、と携帯の通知音が鳴った。
もうすぐ着くよー、と表示されたメッセージを見て玄関に向かう。
「あれ、デク君出掛けるの?」
「麗日さん。ううん、出掛けないよ、寮に持ってくるつもりだった荷物を家に忘れちゃって」
姉さんが届けてくれるらしくて。
そう説明した途端、麗日さんと一緒にテレビを見てた面々がえぇ!と盛り上がった。
「緑谷、姉ちゃんいたん?!」
「すごく見たい!似てる?似てるっ?」
「聞いてねぇよ!」
「え、あれ、そう言えば言ったことなかったっけ?」
「いや、俺は聞いていたぞ」
「ウチも知ってたけどまだ見たことない!」
「すごく見たい!」
「皆、落ち着きましょ、今から緑谷ちゃんのお姉さん、ここに来るのよね?」
「う、うん、ここって言うか、門前まで来て……あれ?」
先ほど、正門前で待ってて、と送った後に新しくメッセージが入っていた。
《中入れたから寮まで持っていくね!》
わざわざ関係者入り口に行って、通行証を借りてくれたらしい。
神野事件以降、セキュリティが厳しくなって面倒な手続きがあるのに申し訳ないことしたなぁ。
「じゃあ、緑谷の姉さん、ここまで来るんだな」
「うん、そうみたい」
「わぁ!見たい!お迎えだー!」
「しっかりご挨拶せねば!」
「せねば!」
「いや、いいよ?!なんか恥ずかしい!」
そう断っても、見てみたい!と退かなかったので話を聞いていた全員でお迎えすることになっちゃった。
うわぁ、そんな大層なもんじゃないのに、いや自慢の姉さんだけど。どんな姉ちゃんなんだ?優しくて頼りになる方らしいぞ。小さい時は似とる言われよったって。女版緑谷か?
パタパタ、コツコツ。
玄関先で足音が聞こえた拍子に話し声もぴたと止まった。
皆でワイワイ話しているうちに到着したみたい、なんだけど、なんだろ、このヘンな緊張感は……。
ゴクリ、と誰かが喉を鳴らす音が響く。
あれ、なんか足音二つ聞こえる気が。
そう考えるうちに扉に影が映って、
ガチャ。
『!!』
扉から現れたのは、
「……は?テメェら何やってんだ」
『爆豪かよ!!』
「かっちゃん?!」
扉に映った影の髪型が違和感あったのはそういうことか。
なんだよ〜爆豪かよ〜と気の抜けた空気になって、なんだよってなんだカス!とキレているかっちゃんに目を向けると見覚えのあるバックを持っていた。
え、それって、
「お邪魔します。あ、出久」
「無々子姉さん!」
『姉さん?!』
ひょこっとかっちゃんの後ろから出てきたのは見間違うはずもない、僕の姉さんだ。
無々子姉さんが隣に並んだ途端、かっちゃんの怒りが鎮火する。
「お迎えありがとうね。なんかもう久しぶりな気がするなぁ」
そう言って僕の頭を慣れた手つきで撫でてくれる姉には申し訳ないが素直に喜べない。
高校生にもなって恥ずかしい上に、後ろで凄い顔で睨んでくる幼馴染がいるんだよ!
「荷物持ってきたよって言っても勝己がほぼ運んでくれたんだけど」
無々子姉さんがくるっとかっちゃんを振り返った時にはスン…と無表情に戻る。
ありがとう。気にすんな。と荷物を渡して姉に大人しく頭を撫でられているかっちゃんはいつもの四割増し穏やかだ。
ちょ、だれ、ボソッと猛獣使いって言ったの?!
「はい、出久。お母さん、もう寂しがってるから帰ってこれる時は帰っておいでね」
「う、うん。分かった」
「あっと、初めまして、緑谷無々子です、弟がお世話になってます」
わあ、初めまして!目がそっくり!と和気あいあいと挨拶をしている中、ずっとその背中を追っているかっちゃんに声をかける。
「えっと、荷物ありがとう、かっちゃん」
「テメェのためじゃねぇ」
うん、そうだろうね。
お礼の返答が予想通り過ぎて苦笑いした。
かっちゃんは僕に目を向けることなく、無々子姉さんの連絡先を聞こうとしている上鳴君に肩を怒らせながら向かっていった。
それを一緒に見送っていたあ、つ、梅雨ちゃんが僕にこそっと声をかける。
「緑谷ちゃん、爆豪ちゃんってもしかして」
「うん、つ、梅雨ちゃんの思っている通りだと思うよ」
「ケロ、やっぱり。分かりやすいわ、爆豪ちゃん」
これからも出久をよろしくね。と和やかに話している姉の後ろからガンを飛ばしているかっちゃんはかれこれ五年ってところだ。
「じゃあ、帰るね」
「うん、お母さんによろしく言っといて」
「あー、このまま連れて帰りたいー。さっきお母さんって言ったけど私も寂しいんだからね!」
「わ、わかった!近いうちに帰るから!」
だから撫でるの止めて、敵も顔負けの表情で殺気飛ばしてきてる人いるから!
だというのに無々子姉さんが振り返った時にはスン…と表情が消えるのだから、もう、そういう個性持ってんじゃないのかっちゃん……。
「勝己もまたね」
「送ってく」
「いいよいいよ、暗いわけでもなし」
「ランニングのついでだ」
「んーじゃあお言葉に甘えて。相変わらず優しいね」
「無々子にだけだ」
「またまたご謙遜を」
「事実だっつの」
『…………』
うわぁ皆の心の声が聞こえる気がする、アレは誰だ、って思うよね、僕も最初思ったよ。
ニコニコと手を振りながら帰っていく無々子姉さんが扉が閉まり見えなくなったところで麗日さんが声を上げた。
「……え、付き合っとるん?」
ううん、一方通行だよ、麗日さん。
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2017/09/03