私には小さい頃から、ずっと悩みごとがある。

すぐに顔が赤くなっちゃうこと。
恥ずかしかったり、緊張したり、照れたりする時はもちろん、喜怒哀楽、感情が大きく動いた時は絶対に。
耳から、首まで。もっとひどいと涙目になる。

気が小さくて引っ込み思案なこと。
虫や蛇とか苦手なものは沢山あって見るだけで泣きそうだし、誰かに話しかけられるだけで緊張して、赤くなって、上手く話せない。
それでよく男子にからかわれていた。

その男子の中のいじめっ子に自分のおもちゃ扱いをされていること。
他の子よりも大げさに反応する私を楽しいビックリ箱のように思っているようだった。

「お前泣き虫だな!」

「無々子無々子!……ほら!クモ!」

「無々子、真っ赤っか!リンゴみてぇ!」

「雷怖ぇの?相変わらず弱虫だな」

「人間リトマス紙だな、お前」

そしてそれは、今も。


19時、いつもの公園。
簡潔なメッセージで呼び出された私は、奥まったところにあるベンチで本を読みながら待っていた。
ふ、と本に影ができて、顔を上げようとした時。

ぽと、

蜘蛛が本に落ちて

「ヒイィぎゃあああぁぁ!!」

はっと気づいた時には、勢いよく立ち上がって本を放り投げていた。
背後からの笑い声に振り向けば、口元を押さえて肩を震わせている待ち人がいた。

「おま、こういう時だけ声デケェな、くっ」
「か、勝己くん、ほんと、ほんとに、やめてくれないかな」
「反応イイお前が悪い」
「り、理不尽……」

未だに、わざわざ私にちょっかいをかけるのは、彼にとって私が面白いおもちゃなのが理由の1つ目。
そして、彼にとって便利な個性を持っていることが理由の2つ目。

「それより、ほら」

ベンチに座った彼がすぐ隣をとんとんと叩く。
私は熱くなった顔に風を送りながら座りなおした。
ある程度落ち着いたところで、個性を使うために彼の全身を観察する。

私の個性は「逆行」
触れたものの時間を戻すことが出来る。
色々条件や上限はあるけど、私以外の物も生き物も可能だ。
例えば、今勝己くんが求めているみたいに怪我した部分だけ怪我する前の時間に戻すことが出来る。

今回は、擦り傷、切り傷、数は多いけどあんまり酷くないみたい。
ホッとしたことが顔に出ないように、視認し終わって、ひとつ頷く。
勝己くんは、ん、と両の手のひらを私に見せるように腕を上がる。
またじわじわと顔が熱を持つのが分かった。

「いい加減慣れろや」
「む、無理だよ……目、閉じて?」
「……ったく」

ため息を吐きながらも素直に目を閉じてくれたことを確認した後、深呼吸。
よし、やるぞ、心の中で鼓舞してから、意を決して
彼の両手の、指の間に自分の指を滑りこませて握る。
握り返されたところで涙がにじんできた。

個性発動の条件の1つが両手で触れること。
人に関しては、こんな風に、いわゆる、恋人つなぎをしないといけない。
視界に入るつながれた両手が恥ずかし過ぎて集中できないので、私も目を閉じてから個性を使う。
頭の中で念じれば、時計の音が聞こえてくる。
これが聞こえなくなれば、終わり。
あ、今日は疲れも戻すのかな、確認するために目を開ける。

目に入ったのは、
夕日で光る白に近い金、
魔力でもおびていそうな深い赤、
それを縁取るまつ毛まで色が薄いんだ、
え、ていうか、顔

「ちっぎゃ?!なっ、うわぁッ!」

思わず手を振り払って距離をとろうと下がったら、見事にベンチから落ちて尻もちついた。
痛みに呻きながら、何のつもりだと勝己くんを見上げる。
すると、一瞬、自分が痛かったかのような、何かを耐えるような顔をしていたけど、

「……んとに、お前反応デケェ」

私の腕をとって立ち上がらせてくれた彼は、仕方ないな、とでも言いそうな呆れた、でも穏やかな顔で笑っている。
その優しい顔を見て、尻もちついて恥ずかしやら情けないやら痛いやらで涙目で赤くなっていた私は、ますます赤くなる。
そして、心臓らへんが、きゅう、と音をたてる。

「あー悪かった悪かった、やりすぎた」

俯いた私が泣き出すと思ったのか、ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でなら、誠意のない謝罪を口にする。

勝己くんは、からかわれて赤くなっていると思っているんだろうけど、そうじゃない、そうじゃないんだよ。
からかわれた以外の理由で赤くなった顔を貴方に見られたくないんだ。

呼び出しがなくて会えなかった日は大丈夫かな、って思ったり。
会ってからかわれて、嫌な思いしたはずなのにその日一日フワフワした気分だったり。

私、Mだったのかなと本気で落ち込んだ時期もあったけど、勝己くん以外からのからかいを嬉しいなんて思ったことが無いことに気付けば、もう、認めるしかない。

「ん、もう、平気」
「よし。ほら、帰んぞ、人間リトマス紙」
「そ、それ嫌だってば……!」
「はいはい、泣き虫無々子ちゃん?」
「〜〜〜っもう!」

私には小さい頃から、ずっと悩みごとがある。
すぐに顔が赤くなっちゃうこと。
気が小さくて引っ込み思案なこと。
いじめっ子におもちゃ扱いをされていること。

そして、最近、もうひとつ。

そのいじめっ子に、恋をしてしまったこと。

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2017/08/22




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