目が合った途端、一緒に固まった。
先に我に返って、向こうが私の正体に気づいたと把握して、行動できたのは火事場の馬鹿力だ。
平穏な高校生活が続くか消えるかの瀬戸際だったのだから。


「……は?スカート、て、おま」
「ごめん、ちょおっと!時間くれる?!」

私の顔を見て、スカート姿を見て、呆けている彼の腕をひっ掴んでその場を離れる。
無々子?!一緒に食堂へ向かってた友達に先に食べてて!と声を放って、人気のない所を目指した。

いつの間にか私が引っ張られる形で、使われていない空き教室に滑り込んだ。
ダルそうにこっちを睨んでいる彼、爆豪勝己にで?と促されて両手を合わせる。

「お願い!昨日のことは誰にも言わないで!」
「つーことは、昨日のあれはお前か」


そう、事が起こったのは昨日。
叔父が経営しているレストランに爆豪家御一行様が来店されたのだ。
うちのレストランは例のガイド本で二つ星をもらっている。
料理の味もそうだが、最大の理由は接客サービス。
完全予約制個室、食器、装飾は全て貴重品。
専属のウェイター、ウェイトレスがついて丁寧な給仕やリップサービスを受け、王族貴族の気分を味わえるというもの。
サービスが不要であればそれも可能。
逆にお得意様は専属指名もできる。
レベルの高いメイド執事レストラン、といった所だ。
プライベートで利用できると、ヒーローにも人気の自慢の身内の店。


問題なのは私はそこでウェイターのバイトをしている。
もう一度言おう、ウェイターをしている。


「てめぇ、男装趣味か、それとも女装趣味か」
「じょ、女装に見えてるの?!いや、そもそも趣味じゃないから」
「知らねえよ変態」
「へ、へんたい……」

自分が専属するお客様を確認した時に爆豪の文字を見てまさかとは思ったが。
ヒーロー科と経営科じゃ会うことはないと高を括ったのが不味かったのか。
体育祭優勝のお祝いを直に言いたいと思ったのが不味かったのか。

それまでの爆豪くんの噂を聞いて、ロクなもんじゃないなと思っていたけれど。
試合を観て、才能を感じ、強さを感じ、自信を感じ、それらから推しはかれる努力を思って。
ストイックにヒーローを目指している姿勢を知って。
真剣な横顔が綺麗といえる顔立ちをしていると気づいて。
噂の悪さを引いても、将来彼を売り出してみたいと思う程には惹かれ、感動した。
だから、レストランに来て、まだあの表彰式のように祝われる気はねぇって吠えている彼を見て言わずにいられなかった。

「貴方様が真にNo.1ヒーローとなった時、その経歴に1が並んでいた方が綺麗じゃないですか」

その第一歩を、とりあえず祝福させて下さい、と。
そこから怒りが鎮火したようで、彼特製の味付けの料理をお気に召して頂き、満足してお帰り頂いた。
他のお客様よりリップサービスした自覚はあるけど。
そのせいで顔を覚えられていたのなら自業自得だ。

「仕事であの格好してるだけだから」
「ああ?嫌なら辞めりゃいいだろバカか」
「給料良いから。似合ってるし」
「ハッ、変態の癖にナルシストかよ」
「だから変態違うって……」
「ナルは否定せんのかキメェ」

ああ?って不良か。噂通りの口の悪さだ。
初対面の、ましてや女子にづけづけと。

確かに、楽しんでいないといえば嘘だし、指名も3位だから実力と自信はある。
それなりに整っている容姿をしているし、それを最大限利用している。
だが、勘違いしないで欲しい。
レストランの特質上、盗難や客とのトラブルがあったことがあり、下手な従業員は雇えない。
人員補完のために、ウェイトレスもウェイターもできる私が重宝されているというわけだ。
ついでに言えば、ちゃんと異性が好きだ。
アブノーマルな趣味もない。

「体型はまだしも、声はどうしてんだよ」
「あぁ、個性使ってるの。声変えられるから」
「今使ってるってか」
「これ地声だから!」

必死に説明にしたら、爆豪くんの目に思案の色が浮かぶ。
もしかして、分かってくれたのだろうか。
クソにクソをかけたような奴だと聞いていたけど、一応会話できているし。
そう言えば、レストランではむしろ、完璧なテーブルマナーを見て育ちの良さに驚いた。
意外と良い人かもしれない、

「要は男装して働いてるってことを隠してぇわけだ」
「う、ん。結構有名店だし、働いていること自体、秘密に、しときたい、なぁ……と」

と思ったわけだが、ニヤニヤと笑いながらこちらを見下す爆豪くんの顔に、嫌な予感がする。

「じゃあ、今日からてめぇは俺の下僕な」
「は?!」
「弱み握られてんだから、言うこと聞くのは常識だろーが」
「どこ常識?!初耳!」
「言わねぇでやるってんだから、感謝しろや」
「うそだろ?!」

こ、こいつ!やっぱりクソ野郎だ!
ヒーローの、いや、人の風上にもおけない!

少しでもカッコいい、良い奴と思った自分の見る目の無さにがっかりする。
私の鑑識眼、経営科じゃ一目置かれたのに。

「……分かった。言うこと聞くから。」
「そうじゃねぇだろ、クソ男女」
「……何なりとお申し付けを、マイロード」

最高に凶悪な爆豪くんの笑顔を見て、私の平穏な高校生活が崩れていく音がした。


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個性:ボイスチェンジ。一度聞いた声を自分の声にできる。

2017/08/17






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