汝は××なりや? | ナノ


▼ 箒と魔法と、時々勉強。



 これはまだ、俺がポンコツ学生だった頃の話。




「んんんがぁぁぁ!!!!!杖なんて!!!!!!!クソくらえ!!!!!!!」
「落ち着きなよロイ……杖折れるよ…」
「うぎぎぎぎ」
「(大丈夫かなぁ……)」

 ここはブリテン中から少年少女が集まり魔法について学ぶところ、王立インヴァレリー魔法学校。…の、中に設立されている図書館だ。え?今日は休日だ?なんで図書館に朝っぱらからいるんだって?
 ……俺は目の前に開いた教科書…初級魔法のページと睨めっこをしていた。本来ならばこのページは一年生の時に初歩の初歩として習うものばかり。蝋燭に火を灯したり、小さいものを軽く浮かばせたりとあるが、俺はこの中のどれもほとんど成功したことがない。もう、四年生になるってのに。
 テーブルの向こう側に座っているのは同い年で友人のロミー=ブレイスマン。このインヴァレリーに入学してからことある事に縁があり、今では大事な友人となっている。……女の子が椅子の上で胡座を書くのはどうかと思うけどね。
 大きく深呼吸して、苦労の末やっとなんとか使えそうだと分かった真鍮で出来た杖をもう一度、と掴む。ロミーはそんな俺を見つめて、少し体を乗り出して念を押すように口を開いた。

「もう一回言うよ、ロイ。心を落ち着けて、目の前の羽根をまず見つめる」
「うぃっす」
「握ってる杖が自分の腕の延長線だと思って、羽を手でつまんでふわっと持ち上げるみたいなイメージをして、魔法をかける」
「うん」
「集中」
「んん…」

 ロミーは結構おおらかでサバサバした性格だけれど、こういう感覚で教えてくれるのは有難いなぁ、と思う。俺もどちらかといえばそんな性格で、腕の角度を〜とか、振り上げる高さは、とか言われるよりもわかりやすい。
 俺は目の前にぽんと置いてある羽根を見つめて、杖の先をふわりと上げる。羽根を、優しく、持ち上げるイメージ……!

「…――浮遊せよ」

 羽根がぴく、と動く。そしてよろよろとゆっくりだけれど、羽根がもち上がり、宙に、

「っ、」
「……で、」
「「出来たーっ!!」」

 頼りなさげにぴく、ぴく、と痙攣を続けているけれど、とにかく羽根は浮いた。それは揺るぎない事実だ。俺は杖をぽーんと放り投げて(真鍮製だし乱暴に扱ってもいいだろう)両手を高く突き上げた。

「出来たーーーーーー!!ロミーありがとな!!!」

 机に頬杖をついているロミーははしゃぎまくっている俺に笑いながら、机に置いてある教科書をぺらりと捲った。

「ほらほら、喜ぶのもいいけど次いくよ」
「おう!今ならなんでもやれる気がしてきた!」






 なんでロミーにこうやって教えて貰っている状況になったのか。

『もうこれダメだよロイ………』
『諦めんなよ!大丈夫だって、もう一回教えっから!』

 話は一週間前、魔法薬学の小テストの前日にまで遡る。俺はロミーに勉強を教えていた。…というのも、実践魔法はからっきしな分頑張ろうと筆記は割と得意なのだ。そんな訳で、筆記が少し苦手らしいロミーに魔法薬学の小テスト内容を教えていた。
 教えていた、と言ってもこの薬草とこの動物の骨をこんな割合で混ぜるとこんな効能の薬ができるよ、といったようなほぼ暗記だ。けれど、なぜこんな調合なのか、調合を間違えるとどうなるのか、ということまで考えた方が頭に入りやすいのもあって、ロミーと共に教科書を捲りながら勉強していた。
 そんで、ロミーが今解いているのは計算問題。濃度の計算式でちょっと応用がはいってて難しめのやつ。

『もっかい問題文読むぞー』
『お願いします……!』

 寮に隣接している自習室の一つを借り二人で机を囲んでそんなことをしていると、同級生で友人のアンサンセが扉の向こうからひょこっと顔を出した。
 アンサンセはロミーの幼なじみで、サラサラした金髪と褐色の肌が特徴的な奴だ。つり目気味の瞳をぱちぱちと二回ほど瞬きをして俺たちだと確信したようで、自室室の中に入ってきた。

『ほかの自習室空いてなかったか?』
『全部埋まってた。そろそろテストの時期だしみんな焦ってるんだろうな』

 アンサンセは牛乳の紙パックを片手に俺の隣に座ると、ロミーのノートをペラペラと見始めた。こいついつも白いもんばっか摂取してるな……。

『わりと解けてるな』
『ロミー頑張ってるぞー、アンサンセも小テストの勉強?』
『そんなとこ。Hey,Siri!!俺の勉強道具!』

 アンサンセが独特の呪文を唱えると、しゅるしゅると糸が紡がれていくように彼の勉強道具一式が現れた。…掛け声はともかく、この魔法速度と精度は凄いなぁといつも思う。魔法の制御に関して言えば、うちの学年でもかなり上位の使い手だ。

『え、何?アンジーもあたしの勉強手伝ってくれるの?』
『ロミーにはロイがついてるだろ』
『むしろ俺はアンサンセに魔法制御のやり方を是非教えてもらいたいよ……』
『それならロミーに教えてもらえばいい』

 へっ?とロミーの少し裏返った驚きの声が出たけれど、それを気にも止めずにアンサンセが話を続ける。

『ロミーも杖なしで大体の魔法発動させられるし、勉強をロイが教える代わりに、魔法はロミーが教えりゃ一石二鳥だ』
『百里ある』

 うんうんと互いに頷きあってロミーの方を見てみると、彼女は両腕を体の前でクロスさせブンブンと首を振っていた。勢い良過ぎて頭が飛んでいきそうだ。

『ええーっ、待ってよ、あたし人に教えるとか多分向いてないよ!』
『ロミー後輩の面倒見いいし、その延長線だとでも思ってくれよ、な!』
『明らかに後輩に思えない……』
『おっしゃロイ、ちょっと屈んで上目遣いだ』
『頼みますロミー先輩代わりにほかの小テスト対策も付き合うからー!』
『ちょっと心が揺れちゃうような事言わないでってば!』

 会話がヒートアップして、ロミーに縋って騒ぐ俺と後ろでヤジを飛ばすアンサンセが煩かったのだろう。隣で勉強をしていたらしいナタリア先輩がドアを突然開けてきて、『今ここで口を縫い付ける魔法をかけられるのと、静かにするの、どちらがお好みかしら?』と笑顔で聞いてきたので俺とアンサンセは秒速で黙った。

 結局。折れたのはロミーの方。俺はこの先しばらくの筆記試験のお手伝い要員となり、ロミーの教えを受けることになったのだった。





「……とはいっても、なかなかそう上手くはいかないもんだな……」

 最初の成功からだいぶ時間が経ったけれど、成功したのはアレっきり。また振り出しに戻ってしまった。…何が悪いんだろう……?
 ため息をついて見上げた図書館の大きなステンドグラスの窓からは、ポカポカした陽の光が入ってきている。真昼も過ぎて、今は午後2時。ちらっとロミーを盗み見ると、俺の前で大きく背伸びをして窓の向こうの遠くの空を見つめていた。
 見つめた先には、抜けるような青い空をバックに飛び回る生徒達。箒レースの練習だろうか。今日は風も少なく、箒に乗るにはうってつけの日だ。ロミーも本当なら今頃あの輪に加わっていたんだろう。

 箒レースの時のロミーは吹き抜ける風だ。あっという間に俺たち観客を遠くに引き離していく。知り合ってから何度その姿を見たことだろう。俺はその度にはしゃぎまくって、アンサンセに耳元で騒ぐなと怒られている。
 俺は魔法制御が最悪レベルなせいか箒もろくに乗れないから、ロミーの姿を憧れて見ていた。かっこよくて、ファンクラブも密かにあって…――俺がそのファンクラブに入ってることは絶ッッッ対に秘密だけど――…最高の、友達だ。うん、友達……なんだよな。
 俺が彼女の時間を拘束してちゃ悪いなぁ、と思いつつそれに密かな優越感も感じるんだから、俺はもしかしたら相当性格が悪いのかもしれない。早くロミーを解放しなくては申し訳ない。
 何か解決策がないか唸りつつ教科書をめくっていると、ロミーが突然立ち上がった。 

「ロイ!」
「ん、なんだ?」
「息抜きしよ!ほらほら、立って!」
「へっ、おわ、待てってば!」

 ロミーはいいことを思いついた、という顔をして俺の腕をガシッと掴んだかと思うと図書館を飛び出した。俺はそれに引きずられるまま、外へ。
 図書館の石造りのアーチをくぐって、噴水広場を抜ける。水がキラキラと輝いて、それがなんだか、ロミーの嬉しそうな時の瞳に似ていた。

「(って俺は何を思ってんだか……なんで水見てロミーの事考えてんだ…)」

 何の関連性もないだろ、何でだ……そう思いながら噴水広場を通り過ぎ、本校舎の大広場を通り抜けて階段を降って、芝生のグラウンドへ。ロミーはいつの間にか手に箒を持っている。

「…ロミー?」

 ロミーは箒にスカート姿のまま跨ると、俺にニヤリと笑いかけて後ろを指差した。

「お兄さん、後ろ空いてますよ」
「へぁ?」
「……なんちゃって。ほら、ロイ早く後ろ跨ってよ!息抜きだ!一緒に空でも散歩しよ」

 有無を言わさないような笑顔で、俺は思わず頷いてロミーの跨る箒の後ろに座った。

「……って、え、箒って2人乗り出来るのか?!」
「普段はやらないけど、まぁ大丈夫だから安心して!!行くぞー!!!」
「あっ待っ心の準備がっアアアアアーーーッ!!?!?」

 ロミーが地面を力強く蹴ると、箒は……俺たち2人はふわりと浮かんだ。ロミーにしてはゆっくりと、それでもあっという間にグラウンドが遠くなっていく。
 ロミーの身体が右に傾く。それに合わせて何となく身体を傾けてみると、前のロミーが「そうそう、そんな感じで乗ってて」と言って少しづつ箒のスピードを上げていく。
 走ってきた階段の上、本校舎のとんがり屋根の一つを一周したかと思うと高度を下げてアーチを潜る。浮遊感が高揚感に変わっていくのが分かる。

「――…」

 ああ、これが。これがロミーの見ている景色なのかなぁ。そう思うと、胸の奥底がぐっと締め付けられて。
 静かに後ろに乗っていた俺に、ロミーが話しかけてくる。

「ロイ、さっきあたしに申し訳ないなって思ってたでしょ。お互い様だよ。あたしだってロイに勉強手伝ってもらってるし!」
「ロミー…」
「焦っちゃダメだよ。箒レースでもそう。焦ったら一番いい道が見えなくなる」

 噴水広場までふわりと飛んで、噴水の上を旋回する。水しぶきが太陽にキラキラしている。

「ロイにだって、魔法は使える!あたしはそう信じてる!」

 高らかに叫んだロミーに、大切な何かを見つけたような気がした。






「……まぁーたイチャついてんのかアイツら…」

 噴水広場の上を2人乗りの箒が飛んでいる。ロイとロミーだ。その様子を見つけたアンサンセは少しだけ微笑んで、手に持っていたホワイトチョコを齧った。



――――――――――

不都合、解釈違い、口調違いがあったらパラレルパラレル。
びーさん宅のロミーさん、
カヨさん宅のアンサンセさん、
ちょっぴりだけ幻さん宅のナタリアさんお借りしました。

17,12,19


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