汝は××なりや? | ナノ


▼ 夕方、バイク、同居人。



 本当ならば今朝のうちに終わるはずだった任務から帰ってきたのは夕方前。
 バイクを用いた召喚魔法を使いすぎたせいでぼうっとする頭をなんとか叩き起こそうと自分の頬をつねりながら自宅まで戻る。自慢の相棒も疲れているように見えたのは気のせいだろうか。
 自宅のドアを開けて、そこで限界がきた。そのまま玄関にへろへろへろ、と座り込む。安心できる我が家に帰ってきたという安堵が、身体中の力を奪ってしまったようだ。
 今なら同居人は居るだろうか。いや、あいつのことだからきっといるはず。居てくれ頼む。そう念じながら、ロイは同居人の名前を呼んだ。

「ズーリーエールーーーーーー…………」
「はいはいおかえ…………どうしたのロイ君……」

 案の定居た同居人――…ズリエルは、ぐでんぐでんに伸びきったロイの姿を見て動きが固まる。けれどすぐに近寄ってきて、ロイの腕をぐいっと掴んだ。その拍子に、ズリエルの長い金髪が肩口からさらりと落ちてロイの頬をくすぐる。

「わぁ、なんかすごい疲れてる?」
「めぇーーーーーーっちゃ疲れてる……頼む俺をリビングまで連れてってくれ…」
「仕方ないな、でもロイ君もちゃんと足に力入れてね。……せーの、」
「おいしょ、っと」

 ズリエルの力を借りてなんとか立ち上がったロイは、同居人の介抱を受けつつなんとかリビングまで辿り着く。
 ソファにぐったりと横になって、目を閉じた。いやもうこれ寝るわ。寝よ。寝るしかない。どうせ今日明日休みもらってんだしいいだろこれ。
 そんな感じでうつらうつらしていた思考に、甘い香りが近づいてくる。大好きなミルクと砂糖たっぷりの紅茶の香りだ。
 重たい瞼をなんとかあけて、ソファから体を起こす。すると両手にマグカップを持ったズリエルがソファの隣に座った。

「はい、ロイ君用特製ブレンド
「……わぁい、俺用特製ブレンドだぁーい……んまぁーい……あまぁーい………………」

 ミルクなのか紅茶なのか分からない熱々のそれをチビチビと飲む。最高だ。疲れた身体に甘いものが染み渡る。

「…なんか今日のロイ君口調おかしくなってない?どうしたの?そんなに疲れてるの?」

 ズリエルが何でもないように、けれど少し心配そうに声を掛けてくる。ロイは手の中の紅茶を見つめながら、長期任務の内容をポツポツと話し始めた。

「俺が一昨日くらいから長期任務だーっつっていなくなっただろう?」
「そうだね」
「あれ突然言われたやつでさ。まぁ突然の任務なんか結構あるし良いんだけど、組んだ人員が新人ばっかりでさ……」

 新人5人を抱えて向かったのはエディンバラに流れるとある川。そこにマクガフィンが関係しているらしい以上が起きているとの事で向かったのだが、そこは大惨事となっていた。

「川の水がぜぇーーーーーーーーーーーーんぶ凍りついてたんだよ……」
「おおう」

 川の周りは氷点下の温度にまで下がりガタガタと震えるロイたち。なんとかマクガフィンであった『雪の女王の絵本』を回収したものの、帰還中に新人調査員の1人がしくじって厳重に封じてあったマクガフィンに直接触れてしまいあわや氷漬けになってしまう所だったのだ。
 その場には自身の他に、もっとも信頼するライバルの調査員ロマンと学生時代からの友人である警備員ロミーがおりなんとか事なきを得たのだが、お陰で新人のうち2人は半身氷漬けでしばらく入院だし、1人に至ってはその様子に恐怖を覚えたのか財団をやめると言い出す始末だ。

「その場はロマンが宥めすかして財団まで戻ったんだけど、やっぱりそのまま辞めちまったよ」
「大変だったね……」
「本当にな!!!ロミーなんて錯乱して暴れ出す新人を物理的に落ち着かせてたから『まさか同じ財団の職員相手に魔法を使うとは思わなかったねぇ』ってしみじみ言ってたからな」
「ああそれはそうでしょ……結局ちゃんと無事だった新人っていないの?」
「いねェなぁ…」
「そっか……」

 一通り愚痴を吐き出してスッキリしたのか、段々目が冴えてきた。すこしぬるくなり始めた紅茶(のようなもの)をぐいっと一気に飲み干したロイは、ぐーっと体を伸ばした後に立ち上がる。しばらくじっとしていたお陰か、はたまたズリエルのいれてくれた紅茶のお陰か。だいぶ回復してきた。これならバイクも乗れそうだ。

「ズリエルー今日は飯食いに行こうぜ」
「おー、何がいいの?」
「肉!!!ヘルメットとグローブ、まだちゃんと持ってるよな?後ろに乗せるからどっかステーキ食いに行こう」
「はいはーい」

 夕方の空。金色に光る真鍮の気球船や真っ赤に染まる建物を背に、バイクに乗った二人の影が道路の向こう側へと吸い込まれていった。




―――――――――――――

かき氷さん宅のズリエル・アボットさん、名前だけさらねずみさん宅のローマン・アディントンさん、びーさん宅のロミー=ブレイスマンさんお借りしました。

2017,12,09

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