太陽が天辺をちょっと過ぎた頃、僕たちはそこに居た。木陰で涼む僕と、隣でスポーツ飲料をガブガブ飲む瑞穂。有って無いような休憩時間の事である。

「もしさ、僕と瑞穂が入れ替わっちゃたらどうする?」

「俺がピッチャーって事っすか?多分打たれまくると思いますよ」

ペットボトルを口から離し、瑞穂は言った。本当にこいつは根っからの野球人間である。長年一緒にいれども戯言の内容さえも全て野球に絡めてくる。僕は瑞穂のそういう真っ直ぐなところが好きだ。

「そうしたら僕はキャッチャーかぁ、サイン出すの楽しそうだよね」

「案外頭使うんすよ?まぁ、楽しくなかったらキャッチャーやってないですけどね」

「それは僕も同じだよ、それよりさっきの答え」

「はぁ」

どうする?と尋ねたら、暑さでネジ外れましたか?と酷く心配そうな顔で聞かれた。季節は真夏である。確かに熱にやられたところはあるかもしれないがそれは単純な疑問だった。ブッ飛んだ話を真剣に話したくなるのは高校生という夢みる年頃なんだから仕方ない。

「案外真剣。できたらやってみたいし」

「一ノ瀬さんの考える事は分かんないなぁ」

瑞穂は再びペットボトルに口をつける。それから少し考える様子をみせ、なにか閃いたかのようにニヤッと笑った。

「でも一ノ瀬さんをリードするのが俺の役目なんで、俺は俺のままでいいっす」

言ってやったぜ、とでも言いたげな瑞穂の顔を無性に殴りたくなった。勿論照れ隠しである。

「でも僕はちょっと瑞穂になってみたかったなー」

一度、同じ目線で世界を見てみたいなと思った。放り出した足をだらしなく揺らして僕は瑞穂に抗議する。一緒の世界を見ることができたならば、もっと瑞穂に近づける。そう思ったのだ。

「うーん、ドラマとかでよくあるのは頭ぶつけたり衝撃を受けたりとかですかね」

「それじゃ怪我して練習できなくなりそうだね、それはやだな」

お互い野球が一番なのだ。でも二番目も三番目も知ってみたい。知ったところでどうするかなんて分からないけれど、単純な知的欲求である。人間だから仕方ない。



短い時間は他愛もない話であっという間に過ぎてしまい、マネージャーから招集がかかった。気分を緩いものから集中状態へとスイッチを入れる。瑞穂も立ち上がり、グラウンドへ向かおうとしていた。そしてちょっとだけこちらを見る。

「少しだけなら入れ替わってもいいですよ」

そう言ってコツンと額をぶつけてきた。ヘアバンド越しの鈍い衝動。心が揺れる大きな衝動。なにが、入れ替わってもいいですよ、だ。反則だろう。
思わぬ行動に戸惑ってしまって思考がフリーズする。

「おい一ノ瀬なにやってる!」

グラウンドの端から千石監督の怒号が響く。慌ててチームが集まっているところへと駆けると鮮烈な赤がそこで笑っていた。



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