「もうダメ……でちゃうよ……」
「我慢してください、塔哉さん。人前ですよ」
「無理……助けて、瑞穂!」
一ノ瀬塔哉は所謂患い人であり、誰にも止められないほどの邪気をその瞳の中に養っているというのが持論である。
「クッ、邪気眼がでるっ……!今宵もこの地に舞い降りてしまったか!ボクの封印を解いたのは貴様か、瑞穂!」
「はぁ……また塔哉さんの裏(笑)人格が……」
端的説明するのであれば重度の中二病患者であるのだ。しかもそれを高校生になってから発症したというレアなケースで、厨二病高校デビューなんて笑い事にならない。
幼馴染であった二宮はその推移にただ驚くしかなく、今では呆れる事しかできない。今まで緑茶やスポーツドリンクしか飲まなかったのに急にコーヒーをブラックでしか飲まなくなったり、やけにラジオを聞くアピールをしだし、そして洋楽の話に詳しくなり、怪我をしていないのに包帯を巻いて学校へ来たりと一ノ瀬の成長スピードは凄まじかった。
そんなブッ飛んだ事をしても人望が薄れないのは本来の一ノ瀬の人柄故なのだろうが、なにがここまで一ノ瀬を突き動かしたのだろうか。時の流れというものは残酷である。最初こそは照れる素振りも少なからずあったものだが、今では外出先でも構わず発症させる程の立派な病である。
「それで、今宵はボクを何処へ連れて行ってくれるんだい?」
「さっきから今宵って言ってますけどまだ昼間ですよ、あと今からは家帰るだけなんで。しっかりしてください」
「えー、折角だからどこか寄っていこうよ!」
しかし厨二病と言うものは一種のキャラクターでしかなく、素の自分が強くなってしまうと簡単に外れてしまう仮面なのであった。
「そうやって普通にしていてくれればいいのに……」
「あっ、いやそんな事は!第一これが僕の普通だ、何を言うんだ!」
「無理しなくていいんですよ、ラーメンでも食いに行きますか?」
「ほんと?いくいく」
「勿論塔哉さんの奢りですよね」
「えっ……しょうがないなぁ……」
二宮個人の意見としては、このまま進行される前に一ノ瀬を矯正してやらねばと考えているのだ。
それをポロッと同級生の四条に話してしまったら「お前は親か」と返されたのは非常に不本意である。
しかしこの状態の一ノ瀬を救えるのは自分しか居ないと考えているのは事実であり、その選民意識も軽度の厨二病である事を気づけないところは流石似たもの同士といった所である。いつかこの出来事が二人にとっての笑い話になればいいのであるが、こういう出来事は後々蒸し返す事も困難な程の傷へとなる場合が多いのでご冥福を祈る他ないのであった。
「でも俺は、いつもの塔哉さんの方が好きですよ」
「えっ、急になんだよ。恥ずかしいなぁ……」
この出来事が恋の足がかりにでもなってしまったらそれこそ一生のネタである。彼らは今も互いに傷を付け合っていることをまだ知らない。