テスト期間は部活は無条件で休みとなる。

せっかくだからと弟の進と帰ろうと教室の前まで来たももの目の前の状況を瞬間的に理解して猪狩守は踵を返した。

こういう時は自分の頭の良さが酷く煩わしい。
殆ど人が居なくなった教室で仲睦まじく話す男女。

それがどう言う意味かなんて、分からないはず無いじゃないか。



ふわふわと帰路に着き、部屋のベッドで考え事をする。
進も高校一年生と年頃なのは分かるのだが、何故だか酷く心がざわつき落ち着かない。
兄弟だから、家族だから、あんな不意に男としての一面を見てしまって動揺してしまったのだ。
進は普段から温厚な性格と言うのは一番理解していたが、あんなに端整な表情で笑っていただろうか。
気に入らない。
どうして気に入らないのか分からない自分も気に入らない。

急に置いていかれた気分がして酷く心細くて思わず涙がこみ上げてきそうになるが、男猪狩守。
これしきの事で泣いたりしないのだ。
女々しい姿を見せてうんざりさせたくないのだ。
誰に?きっと進にだろう。

でも心の中で本当は進にもっとちやほやされたいとも思っているし、少しばかり独占欲もあるのだ。
だから、なんであんな女と話すのか分からない。
もっと僕を話せば進の目線で進の好きな話題を高い知識をもって話してやれるのに。
これは嫉妬というやつなのかもしれない。
と、いう事は僕は進に恋しているのだろうか。困ったなぁ。


ベッドに潜り高鳴る心を押さえつける。
どうしたらいつもみたいなかっこいい僕で居られるんだろうか。
今、進にあったらどんな反応をしてしまうか考えたくもない。
いや、落ち着け猪狩守。
これが恋だと決まったわけでもないのだ。
そうだ、ただの動揺だ。進は人よりちょっと優しくて、ちょっと逞しくて、ちょっと賢くて、僕ほどでは無いけど天才的な才能を秘めているから。
だからたくさんの人から好意を持たれているのは知っているけど、そんな進が僕の知らない表情を浮かべることが出来るなんて少しショックだっただけなんだ。




すると急に「コンコン」とノックの音が部屋に響き心臓が跳ね上がる。
誰だろうと思い扉を開けるとそこには進が居た。

「兄さん今日はどうしたんですか、帰り待ってたのに」

知らない女と話していたお前を見てしまい動揺したなんて、言えるわけがない。

「あ、あぁ。なんだか急に体調が悪くなってしまって。だから今日はもう寝るよ」

適当に言い繕って出て行ってもらおう。
今もこうして、距離が近い。

「大丈夫ですか!?なにか僕に出来る事ありますか?使用人には伝えました?」

必死に訴えてくる進に何故だかまた胸がいっぱいになる。
口からデマカセとは言うものの、案外本当に体調が悪かっただけなのかもしれない。
ならこの葛藤も全部、全部意味の無いものだったのかもしれない。

「いや、大丈夫。一人にしてくれ」

と、無理やり扉を閉めた。
本当は抱き合って眠ってみれば少しは気がおさまるかもしれないだなんて、言えるわけがない。



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