氷塊が空気に落ちる。ひんやりとした冷気を含んだ潮風が頬を撫で、容赦なく表面の温度を奪っていく。海岸沿いの砂浜は閑散としていて、過ぎる夏を惜しむように、寄せては返す波が緩やかな曲線を描いては白い砂を濃く濡らしていた。
 絶えず聞こえる波の音に誘われるように、波打ち際に足跡を残す。その様子を見て子供みたいだと笑う顔に、うるせえと不機嫌に返した。這い上がってきた波が足先を掠め、慌てて乾いた砂の方へと後退りながら、水平線の上にぽつんと乗る太陽を見た。赤く染まる丸い円は辺りを鮮やかなオレンジ色に染め上げながら、ゆっくりと一日の役目を終えようとしている。
 髪を靡かせて、目を細めてその景色を見ていたユーリの手をフレンが掴む。振り返ったユーリの瞳の中で、夕日をきらきらと弾く金色の髪が揺れていた。
「寒くなってきた」
「そうだな」
 緩く合わさった皮膚から伝わる温い温度が、ユーリの意識をこちら側に繋ぎ止める。幼い頃、昼と夜の境目にユーリが落っこちてしまいそうだと、半べそをかいていたフレンを思い出した。自然と口元に笑みが浮かぶ。目の前の幼馴染は、あの頃から存外に臆病で、寂しさに敏感だった。
「帰ろうぜ」
 堪えきれずにからからと笑いながら、手を強く引っ張る。短い悲鳴と共に砂浜に足を取られ、バランスを崩したフレンにお構い無しに歩き出した。背後で恨みがましい声が聞こえても、ユーリは振り返らなかった。
 足が細かな砂を踏む音を聞きながら、落陽に背を向けて見上げた夕闇の奥には満天の星空が広がっている。半歩後ろで、ユーリを呼ぶ声が優しく鼓膜を震わせて、ユーリは穏やかに笑った。寂しくは無い。



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