「これ、なんだ?」
 熱も上がったベッドの上で、指で摘んだ小さなビニール袋をひらひらと揺らしながら、にやにやと笑うユーリの気味の悪さといったらなかった。こういう時のユーリは、大抵ろくなことを考えていない。嫌な予感に早々に警戒したフレンを見て、ユーリはやはり楽しそうに笑うだけだ。
「……楽しい気分になれるものではないことは確かだな」
「んー、楽しい気分になるかは分からねえけど、気持ち良い気分にはなる、らしい」
 あっけらかんと返された言葉に閉口する。つまりはそういうものということだ。毎回毎回一体どこで手に入れてくるのか、ちゃんと正規のルートで手に入れた物だろうな、というからしいってどういうことだ、云々。思考が脱線し様々なところに飛びかけたフレンを元に戻したのは、ユーリが袋を破くびり、という音だった。
「何してるんだ」
「なにって、使おうと思って」
「は!?何言って、」
「安心しろって、お前には使わねえから」
 そういう問題じゃない。言いかけた言葉を遮るように、こんな得体のしれないもん、お前に使わせられねえとけろりと言ってのけたユーリは中から小さなカプセルを摘み出した。一応薬の類の形状はしているが薄いピンク色のそれは見るからに怪しく、ベッドの上で見ると余計にその怪しさが増したように見えた。
 身動いたユーリが四つん這いになる。口から飲み込むものだとばかり思っていたフレンは、その様子を見てぴしりと固まった。どういうことだ、今、彼は、何をしようとしている?混乱している雰囲気に気付いたのか、ユーリが頼んでもいない説明を始める。
「んっ、この薬、口から飲むよりこっちから入れた方がよく効くって、いうから」
「なっ、だからって」
「お前は黙って見とけって、っあ、ん」
 四つん這いから恥ずかしげもなく下半身を上に突き上げた格好で、ユーリの長い指が後孔にそれを押し当てる。体の力を抜くように小さく息を吐いて、そのあとすぐに指先に力が込められた。先端が埋まった座薬のようなそれは、先程までフレンの手によってぐずぐずに溶かされていた縁から、わずかな緊張に収縮する媚肉の間へと少しずつ姿を消していく。
「ん、ぐ、っふ、ぁう、ん」
シーツに頭を預けたユーリの体は細かく震え、時折堪え切れずくぐもった喘ぎ声がぽろぽろと零れ落ちては部屋を彷徨う。黒くうねり散らばる髪の間から見える耳朶が赤く染まっているのを、フレンは半ば呆然と見ていることしかできなかった。
「ん、全部入っ、た、っは」
「っ、ユーリ」
「な、フレン、これ溶けるまで、まだお預け、な?」
 上半身を起こし、そろそろと近づいてきたユーリが膝の上に乗り上がる。艶を纏った笑みと共に降ってきたキスを受け入れれば、その後に待っていたのははもう、顎を伝うのがどちらの唾液か分からなくなるぐらいのキスの応酬だった。





 口内に突き入れた舌を好き勝手に動かしてやろうと思っていたのに、早々に絡め取られ主導権を握られる。あれだけ動揺していたくせに、案外積極的なことにユーリは内心で笑った。静かに流れる夜の帳の中、ベッドの上でのフレンのキスは激しくて気持ち良くて好きだ。薄い粘膜が溶けて一つになってしまうぐらい、夢中になって貪る。
 ひとしきり求め合った後、どちらからともなく身を離した。唾液に濡れる唇を拭い、フレンの下股へと手を伸ばすとそこは布越しに手で触っても分かるぐらいに張り詰めていて、思わず口角が上がった。
「勃ってる」
「……仕方ないだろ」
 指摘すれば頬に赤が差す。逸らされた視線にそれ以上揶揄うのはやめにして体勢を低くし、窮屈そうな布を寛げた。中から出てきたそれを躊躇いもなく口内に招き入れると、目の前の腰が揺れる。
「ユーリ、ッ」
「ん、」
 悲鳴のような声が咎めるように自分の名前を呼ぶが、そんなことでやめるつもりはない。裏筋を舌でなぞりながら奥深くまで咥え込むと、鼻につく青臭いにおいに流石にえずきそうになったが我慢して顔を上下に動かした。
 いやらしい水音と、快楽を堪えるようなくぐもった声が部屋の中に響いている。先端から溢れるフレンの先走りを啜りながら、ユーリは自分の中にあるカプセルが少しずつ溶けていくのを感じ取っていた。外側の薄い膜は体温で時間をかけながら溶け出し、割れた瞬間に中に入っている液体が体内を侵す仕組みだ。挿入された人間が焦れているのを見て楽しむ為の構造だが、普段なら悪趣味なそれに嫌悪感すら抱いただろう。しかし、今のユーリにとってはただ性感を高める材料にしかならない。
 逸る気持ちを抑えながらじゅぼじゅぼと音を立てながら夢中でフレンのモノをしゃぶる。気付けばユーリのそれも先走りを零しながら緩く勃ち上がっていて、糸を引きながら落ちた透明な模様がシーツを汚していた。
「ん、ぐ、んぅ」
 一度口を離してから再び屹立を根元まで咥え込む。喉の奥に先端が当たって苦しくなるが、我慢して引き絞るようにするとフレンの肩が揺れた。くぐもった喘ぎ声のあと、粘ついた生暖かいものが勢いよく口内に吐き出される。
 反射的に飲み込みながら、フレンの出したものが喉から体の中に落ちていく感覚に体が震える。喜びとも快楽ともつかないその衝動に小さく喉を鳴らした瞬間、中に入っていたカプセルが弾けた。中から流れ出した液体が肉壁の奥に広がっていくのが分かって、ユーリはその感覚に堪らず口を離してシーツに沈み見悶える。
「ぁ!?や、ん、ぁあ」
「っ、ユーリ?」
「んぁ、は、なか、割れ、っ、なん、っあああ!」
 すぐにむずむずとした感覚が腹の中を中心に広がり、断続的に来る小さな快楽の波に腰が細かく震えた。頭からつま先まで体の全てが自分の意思ではではコントロールできなくなっていき、頭の中が痺れるように甘くなってフレンが欲しくてたまらない。そろりと後ろに手を伸ばし、四つん這いの姿勢で指を入れるとそこはすでにどろどろに解けていて、触れた場所から背中に向かって言いようのない痺れが駆け上がった。敏感に反応した腰が、がくがくと痙攣する。
「ぅあ、はは、きもちい、っん」
「何を、」
「ふれん、なか、熱くて」
「っ、」
「なあ、頼む、っん、お前の、いれてくれ」
 目の前のフレンを見上げながら、誘うように腰を振ってみせる。まだ入れたままだった指が縁を擦る刺激に耐えながら熱い息を吐くと同時、シーツを掴んでいた片方の手を掴んで無理矢理引き寄せられた。抜けた指に少し名残惜しい気持ちになったがそのままフレンの膝の上に乗る体勢になって、互いに汗ばんだ体温が重なる。
 その気持ち良さに目を細めると、尻たぶをかき分けてもう一度硬さを取り戻した切っ先が押し当てられた。見上げてくるどこまでも深い青色の瞳に、確かな欲望の影が見え隠れする。それに答えるようにキスを落としてから、ユーリは好戦的に口角を釣り上げた。体重をかけて、ゆっくりと自分から腰を落としていく。そのまま半分ほど収めたところで動きを止めた。
「んん、は、ぁん、ああ、っは」
「っふ、くっ…」
「ぅん、ん、も、むり、動いて、くれ」
「優しくできる、自信がない」
「いい、いいから」
 お前のは、きっと全部気持ちいい。声を絞り出して懇願すると、短い舌打ちをしたフレンが腰を掴む。反射で身構えたすぐ後に、大きな衝撃が来た。
「――っあああああ!」
 最奥まで一気に貫かれて、頭が真っ白になる。大きすぎる衝撃に限界を超えた体はびくびくと大きな痙攣を繰り返し、仰け反った背が軋んだ。開いた口からは言葉にならない喘ぎ声が零れ、自分自身が達したことを自覚する頃にはまき散らされた精液が二人の腹を汚していた。
「っひ、ぐ、ァ」
「ユーリ、大丈夫か?」
「ぁ、あ、やば、気持ちい、っはフレン、もっと」
 まだ到底足りない。疼きは全身に回り、肌に触れるシーツの感触にすら途方もなく感じ入ってしまう。ろくに焦点も合わせられない状態の中で熱に浮かされながら続きを強請れば、上体を倒され繋がったままシーツの上に組み敷かれる。覆い被さってきた体を受け止めて艶やかに微笑めば、あとはもう、長い快楽の奔流にその身を投じてしまえばよかった。




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