暗闇の中で、自分の息遣いがやけに大きく聞こえる。湿った吐息と合わさるかのように、ぐちゅぐちゅと気持ちの悪い水音がひっきりなしに響いていた。じわりと額に浮かんだ汗の感触が嫌いだ。
「はっ、ん、そうし、ぁ、そうしっ」
 自分のものとは思えない震えた細い声が、みっともない喘ぎ声と一緒に名前を呼んだ。止めようと思っても、止められない。名前の主は一騎の幼馴染で、一騎が犯した罪そのものであり、一騎たちをファフナーで戦わせる指揮官だ。氷のように自分を突き刺す鋭い目線を思い出して、ずくりと腰が重くなった。
「は、っふ」
 目尻に涙が浮かぶ。苦しいのに、苦しくてたまらないのに、熱を持て余した体は否応無く快楽に溺れていく。背中を這い回る悪寒にも似た性感に、太腿が勝手にぶるぶると震えた。苦しい、気持ち良い、彼の名前を呼ぶこと意外、何も考えられない。
 手を動かすだけでは到底足りなくなって、肩まで被った布団の中でうつ伏せの体勢のまま、だらだらと先走りを零し続けるそれを敷布団に擦り付けた。ざらざらとした布地の感触が新たな刺激になり、唸るように喘ぐ。
「ぐ、っん、はっ、あ、あ、そう…ぁ、総士っ」
 はしたなく腰を動かしながら、どろどろに溶けて馬鹿になってしまった頭で今日の戦闘を思い出す。総士に指示されながら、ファフナーで敵を、フェストゥムを何度も蹂躙し倒した。悲壮に歪む顔をブレードでズタズタに引き裂く感覚が、今も手に残っている。それにどうしようもなく嫌悪して、それ以上に興奮した。
 うねるようにとめどなく体内から湧き出してくる熱が全身を焼く。炎のようなそれに神経すら炙られながら、一騎は総士とのクロッシングの記憶を手繰り寄せた。
「そう、総士、ぁ」
 許されないほど近くに、ずっと彼の気配があった。身体に感じる痛烈な痛みと共に、脳内に直接響く一騎にとってたったひとつの落ち着いた声が、自分の名前を呼ぶ。
(一騎)
 目の前が白と黒に点滅する。全身が不規則に痙攣して、一騎はぐしゃぐしゃに乱れた皺だらけの敷布の上でのたくった。大きすぎる快楽を逃がす術が分からない。あ、あ、と意味の無い言葉を発し、口の端からは飲み込みきれない涎が零れ顎を伝っていく。一心不乱に擦り付けている場所は、吐き出したもので目を逸らしたくなるほどぐっしょりと濡れていて、 もう、いつイったのか、何回イったのかも分からなかった。
「っは、そうしっ、総士、おれ…っ」
 獣のように荒い呼吸をしながら、一騎は縋るように総士の名前を呼んだ。それが何を意味するのか、もう分からなかった。呼びながら、自ら腰を動かし敷布団で自身を擦り続ける。赤くなったそこからはじくじくとした痛みを感じたが、今はその痛みすらも一騎を身悶えさせた。
「おれ、こんなに…っ、そうし、総士、そう、っああぁぁ」
 絶叫と共に、一際大きく身体が跳ねる。ぐちゃぐちゃになった布団の中で、新たに吐き出された青い臭いが鼻を突いて、僅かに冷静になった頭の片隅で気の狂うような自己嫌悪が渦巻いている。汗だくになった身体を抱きかかえながら、一騎は力無く目を閉じた。



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