とろりと熱い液体を喉に流し込むと、甘ったるい味が熱を持って落ちていく。
 少し鈍った頭の中はふわふわと気持ちが良く、そっと落とした視線の先の、透明なグラスの中に綺麗な紫色が揺れていた。濃厚に香る葡萄の香りに、懐かしく思ったのはあの町の事だ。胸に灯る暖かい記憶と、その隣で蹲る真っ黒な切なさと痛み。今は穏やかに受け入れられるようになった回顧に、一番驚いているのは自分自身だ。そんなことを考えながら、喉から腹に落ちる熱に任せて、ユーリは目の前のテーブルに突っ伏した。
「酔った?」
「酔ってねえ」
「あはは、君にしてはちょっとペースが早かったよ」
「気付いてたんなら言えよ」
 ジト目で見上げた先のフレンは、少しも悪びれた様子も無く笑っている。落とされたごめんという言葉にもどこか楽しむ響きがあることを感じ取ったユーリは、大袈裟にため息をついてみせた。これ以上会話していても無駄だ。
 少しばかり分が悪い。頬に当たる木目の冷たさが心地良くて目を閉じると、上から今度は呆れたような声が降ってきた。
「眠いならベッドで寝なよ」
「んー」
「……まったく、ほら、手を貸してやるから」
 ぐいと引っ張られた腕に顔を上げると、やっぱり呆れた顔のフレンが見下ろしていた。それが少しおかしくて、笑い声が口の端からぽろぽろ零れる。
「別にオレは寝てもいいけど」
 それだとお前の作戦は失敗だな?にやりと笑うユーリを見て、一瞬息を詰めたフレンはその後小さく息を吐いて、それから口の端を緩める。出てきた言葉は随分とあっけらかんとしていた。
「なんだ、バレてたのか」
「酒で落として襲おうなんざ、帝国の騎士団長様がすることじゃねーな」
「そうかもね」
 テーブル越しに合わせた唇に満足できなかったのはお互い同じだ。掴まれた腕はフレンに引かれるままに、側にあるベッドへと乗り上げる。スプリングが軋んだ音を立て、ぐっと沈み込むシーツの上に二人転がった。組み敷かれる体勢を享受しながら、ユーリは満足そうに微笑む。
「まあ、悪くねえけど」




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