本丸の庭に、がりがりと氷が削れる小気味良い音がする。出陣も遠征も無い、休日のお八つ時。じりじりと照りつける太陽の下で、短刀たちが一生懸命氷を削る。
 この本丸の主が借りてきたという古びた機械の取っ手を回すと、くるくると氷が回ると同時に、薄く削れた氷が下に置いた硝子の器に落ちていった。こんもりと山になったところで手を止め、赤、青、黄、色とりどりの甘い蜜を掛ける。そして出来上がったのが所謂かき氷というものだ。
 縁側に座り、嬉しそうに自分が削った氷を見ては口に運ぶ彼らを、三日月は穏やかな気持ちで見ていた。子供(と言うには些か語弊がある年月を生きている彼らだが)の笑顔は良いものだ。見ていて飽きない。思わず口元を緩めると三日月殿、と名前を呼ばれた。ついと視線を投げると、先程まで氷を削る短刀たちを手伝ってやっていた男がいた。縁側に座る子らの殆どはこの男の弟である。
「一期か、ご苦労だったな」
「ありがとうございます」
 隣に立ち、やはり暑いですなあと柔らかく相好を崩す男の日の光の色に、つられる様に微笑めば手を取られる。そのまま短刀が座る場所から少し離れた位置まで歩き、こちらへ、と案内された先には盆に乗ったかき氷がふたつ用意されていて、なるほど用意が良いものだなあと思わず笑ってしまった。
「丁度お八つ時です、三日月殿もご一緒にどうですか」
「では、お言葉に甘えるとしようか」
 揃って縁側に座り、三日月は手に持った硝子の器にさくりと匙を入れる。鮮やかな青色の蜜が掛かった薄い氷は口に入れると甘酸っぱい味を残し、すぐにほろりと舌の上で溶けた。こくりと飲み込めば、冷たい刺激にぴりぴりと痺れさせながら、喉の渇きを潤すように下っていく。
 小さな山を崩しながら美味しいと呟けば、それは良かったと嬉しそうな応えが返って来る。緑の色彩豊かな庭に響くあどけない声と蝉の鳴き声を傍らに、後ろの部屋に引っ掛けてある風鈴が涼やかに揺れた。傾いた日差しは少しも衰えず地面を焼き、影からはみ出た肌を布の上から焦がそうとする。
「一期」
 空色が柔らかく景色に馴染む。ああ、この男には夏がよく似合う。かき氷と同じ色になっているであろう舌を少しだけ出して見せながら、顔を近付け少し得意げに、囁くように言った言葉に一瞬ぽかんとした表情になった目の前の男。
「御前様の髪の色だ」
「っ、」
 僅かに耳を染めたその姿に愛しやと笑えば、仕返しのように掠める様な口付けが降って来た。僅かに触れた冷たい唇のその奥の、男の舌もきっと、鮮やかな夏の色になっているのだろう。




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