ふっと意識が浮上して、薄暗い視界の中瞬きを繰り返す。いつもより滑らかな肌触りのシーツの感触を確かめて、くああと欠伸をひとつ。涙で少し滲む視界に、蕩けるようなハニーブロンドの髪が流れている。
 日の昇りきらない早朝の空気は刺すように冷たく、少し身動いたせいで剥き出しになった肩が小さく震えた。寒い。堪らず隣の体温に擦り寄ると、ゆるりとした力で抱き返された。包み込むような柔らかな温度に目を細めて、抱き締められるまま、抱き枕になること数分。
 そのうちもぞもぞと身動いた体と共に、至近距離で寝起きの低い声が響いた。息を殺して見詰める先で麦穂のような睫毛が揺れて、その間から深い青色が覗く。数秒視線を彷徨わせた後、瞼の上にまるで露のように纏わりつく眠気を瞬きでぽとぽとと振り落とした。それでも心地良い眠りの淵が恋しいのか、むずがるように眉間に少し皺を寄せ、普段よりも幾分あどけない表情に内心でくすりと笑う。
「……おはよう」
「おはよ」
「いつから起きてたんだ?」
「ついさっき」
「そう」
「お前の寝顔見てた」
「……やめてくれ」
「綺麗な顔してんなーって。照れる?」
「分かって言ってるだろう」
 少しずつ目が覚めてきたのだろう。会話する声に力が戻ってくるのを感じながら、相変わらず腰に回されたままの手が肌を這うのにぴくりと反応する。夜が明ける前まで散々暴かれ攻められた体は熱を失ってはいるものの、未だじんじんと中で燻るものには小さな刺激でも転じて甘い毒に成り得る。
「っ、こら」
「ん?」
「昨日散々ヤラシイことしただろ」
「まだ足りないって言ったら?」
「……この絶倫野朗」
「酷いな」
 君だから欲しいと思うのに、微笑んで言われた言葉に息が詰まる。落ちてきたキスは優しい穏やかなもので、啄ばむようなそれから緩やかに舌を絡ませ、揺れる金色の髪に指を差し入れた。
 静寂が部屋を満たす中、ひっそりと蜜を分け合う行為は背徳的で、だからこそ気持ちが良い。水の中で揺蕩うような底知れぬ安心感と同時に、ふわふわと宙に漂う意識を引き戻すように、胸の内側をかりかりと引っ掻くものの正体をユーリは知っている。勿論、フレンも。
「っは、フレン」
「ユーリ、好きだよ」
「オレは愛してる」
「うわ、僕も」
 それすら受け入れた上で築き上げた関係は何にも変え難いもので、もう今更後戻りは出来ないと分かっている。何も無かった頃には戻れない。それでも、選び取った答えに後悔はしていないのだ。優しい目をしたフレンが頬に触れて、愛おしむように撫ぜるこの感触さえ、幸せだと感じてしまうのだから。
 口元を緩めたユーリに、フレンが眩しそうに目を細める。世界の祝福を受けられなくても、今だけ。世界が目覚める前に二人きり、穏やかな時間を過ごせたら、それでいい。




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