身体の中で燻っている熱を自覚していたけれど、無視できる範囲だと思っていた。今思えばそれは、予測を誤ったことになるのだろう。
 予測を誤った。というよりは、分かっていたけれども見て見ぬ振りをしていたという方が正しい。そのツケが今来てしまったのだ。
 フレンは自室のベッドの上で項垂れていた。
 原因は言うことを聞かない自分の身体である。自分の下半身を見下ろして、今更後戻りは出来ないことを確かめて覚悟を決めた。こればっかりは男の生理現象で、溜まってしまったら何らかの方法で体外へ排出させなければならない。排出できなければ身体が自然と排出しようとする。こればっかりは仕方がない。
 嫌々ながらもズボンと下穿きをずらして、フレンはそこに手を伸ばした。
 控えめに握ると、表面をゆっくりと擦っていく。少しだけ息が上がり始めて、もうこうなったら出来るだけ早く終わらせようと目を閉じて行為に集中しようと試みる。
 そうすると浮かんでくるのは見慣れた黒色で、長い髪を揺らすその姿が誰なのか、気付いた瞬間に体内で一際大きく熱がうねった。
(ユーリ)
 口に出すことはしなかったが、口内で転がしたその名前は今は隣にいない恋人の名前だ。最後にその姿を見たのはいつだったか。正確な日数はもう覚えていないけれども、優に3ヶ月は超えて会っていないはずだ。
 最後に会った日のことを思い出して、うねる熱に押されるように手を動かす。あの日は抱えていた仕事も一段落ついて、心中穏やかに夜の執務室で急ぎではない資料を読んでいた。そこにまるでタイミングを見計らったようにユーリが訪ねてきた。勿論いつものように、彼専用の玄関になりつつある窓から。
 向こうに余り時間が無かったようで、会って早々羞恥心の欠片もない顔で「ヤろーぜ」なんて言われて流されるようにその身体を押し倒した。
 机の上に流れる黒髪からふわりと香ってきた石鹸の匂いを指摘すれば、にやりと笑ったユーリが「準備いいだろ?」と誘うように唇を親指でなぞってくるものだから、誘われるまま唇を奪った。そこからはもうお互いのことしか考えられなくなって、求めるまま、求められるままに熱を分け合った。
 ふらふらと辿る記憶の中で、ユーリが甘い声を上げる。フレンが与える快楽に身悶えながら、それを少しでも逃がそうと淫らにくねる身体を逃がさないように掴んで突き上げると喜ぶように中が締まる。そしてまた零れ落ちる甘い嬌声。
 溶けた声で名前を呼ばれると、それだけで腰が重くなる。目を閉じた暗闇の中にユーリを思い描きながら、フレンは一心に自身を抜いた。先程よりも更に荒くなった呼吸と硬さを増すそれに、確実に真盛へと近付いていることを知る。
(ユーリ)
 もう一度下で転がした名前に、記憶の中のユーリが閉じていた目を開けた。呼吸を乱され額を汗で濡らしながら、恍惚とした表情で微笑んだ彼はどこか愛おしむように「フレン」と自分の名前を呼んだ。
 途端、瞬間的に熱が高まる。その熱に抗わずに自身を根元から一気に抜き上げると思考が白く染まって、断続的に出される精をどうにか手のひらで受け止めた。
 喉の奥で止めていた息を全部吐き出して、脱力する。冷静になりかける思考が羞恥心を連れて来るが、それよりもまずは手の中のものを片付ける方が先だ。情けなくなりながらも、フレンはのろのろとベッドサイドに手を伸ばした。




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