「自分でやりなよ」
 にっこり。びっくりするような微笑みでそう言う顔を、できることなら殴ってやりたかった。
 
 どうしてこうなったんだ?熱に浮かされた頭でユーリは考える。原因は間違いなく目の前の椅子に座って楽しそうにこちらを見るフレンだ。
 顔が熱い。肩で息をするユーリは、苦しそうな顔をしながらも手の動きを止めることはしない。フレンの目線を手元に感じて、誰かに見られているという感覚が彼の性感を更に煽った。
「ユーリのもうぐちゃぐちゃだね」
「は、うるさ、い」
「僕に見られてるのがイイの?随分感じてるみたいだけど」
 見られて感じるなんて、ユーリは淫乱だねと言われた言葉に、そういうお前もいい趣味してんじゃねーかこの変態と口には出さずに罵った。
 いつものようにベッドの上で、そういう雰囲気になったから誘った。いつも誘うのはユーリの方で、誘いに乗ったフレンに今日もこのまま押し倒されると思っていたのに。にっこり笑ったフレンはとんでもないことを言い出したのだ。「じゃあ、自分でやりなよ」と。
 勿論全力で断ったユーリに、フレンは不満そうな顔をしながらも口付けを落とした。そのまま押し倒されて愛撫が始まったことに安心して、油断していた。そう、ユーリは油断していたのだ。フレンは一回断られたぐらいで諦めるような奴じゃなかった。何故早く気付かなかったのか。後悔しても後の祭りである。
 いつもの丁寧すぎる上半身の愛撫に段々息が上がってきて、いい加減下も触れと言いかけたそのタイミングでフレンが上から退いた。いつもとは違う展開に疑問符を浮かべるユーリを見つめて、彼は「ここまでやったから、後は自分で出来るだろ?」とのたまった。
 嫌だと言って止めようにも、後戻りが出来ないところまで追い詰められてしまっている状態ではどうしようもない。フレンを見てもにこりと笑われるだけで、こちらが動かない限り手伝う気はさらさら無い様子だった。計画的犯行だ。気付いても、時すでに遅し。
 おかげで今、この状態だ。フレンに全てを晒す格好で、ユーリは自慰を余儀なくされている。





 ぐちぐちと響く音が不快だ。自分の手の濡れた感触に、自分でやるのは久しぶりだということをユーリは思い出した。溜まるものは溜まるけれども、フレンがいるから最近は自分ですることなんて殆ど無くなっていた。
 はあはあと上がる自分の息が耳障りだ。耳を塞ぎたくても塞げない。羞恥心で熱くてたまらないのに、手の動きを止めることが出来ない。早く出して、早く終わらせたい。なのに。
 限界はすぐそこにある気がしているのに、あと一歩のところで達することが出来ない。苦しくて殆ど縋るように見つめた先のフレンは、首を傾げた。それから小さく嘆息する。
「仕方ないなあ」
 少し残念そうに言って、椅子から立ち上がったフレンはベッドの上に乗り上げる。伸ばされた手が先端に触れた瞬間、ユーリはびくりと肩を揺らした。
「ん、っあ」
「本当はいくとこまで見たかったんだけど」
「や、っあ、ばか、死ね」
「恥ずかしがるユーリが見れたし、まあいいや」
 変態、呟きかけた言葉は落ちてきたキスで封じられた。深いキス。その間も動かされる手に、自分でやっている時にはあれほど届かなかった限界が見えた。
「つ、ぅ、フレ、も」
「うん、いいよ」
「っふ、あ、―――っ!」
 先端に爪が当たった瞬間、ユーリはあっけなく終わりを迎えた。達した後の荒い息の中で、冷静な思考が戻ったユーリは、とりあえず横にあった枕をフレンに全力で投げつけたのだった。




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