小説 | ナノ





久しぶり、二人一緒のオフ。
出かけようかってあなたが言うから、じゃあ行きましょうとその手を取った。


ふらりと出かけた先は海。海水浴シーズンにはまだ早い為かほとんど人影はなく、太陽に灼けた砂に並んで座れば、広い海岸線をふたりじめできた。

「ほんと、久しぶりだよな。しかも祝日に休みとれるなんてさ。最近割と多忙だったし」

隣で空を見上げるおじさんと、そんな横顔に見とれてる僕。カモメがどこか遠くで、にゃあと鳴いた。

「まぁ、バニーちゃんが大人気だから仕方ないけど」
「何拗ねてるんですか」

むくれた笑みを浮かべてみせた恋人に、自然と頬が緩む。やわらかくなった、なんてからかわれてしまうかもしれない。それも悪くない、けど。

「海の日だからって海に来るような馬鹿は俺らだけかね」
「そういうことですね」

静かすぎる海に波音だけが響く。頬の熱と砂とをふわりと撫で、吹き抜けていく潮風。吹きゆく先々に夏の香を届けるのだろうか。彼は風にさらわれそうになった帽子を、そっと抑えた。

「騒がしい海もいいけど、こういうロマンチックなのも乙だよな」

おじさんの声にはっとなる。行き先のチョイスを後悔し始めた自分を見透かされたような、くすぐったい気持ち。

「連れてきてくれてありがとね、バニーちゃん」

日差しにも似た笑顔が咲く。ああ、この人はどうして、こうも。

「おじさん」
「ん?」

暑さに浮かされたことにして不意に唇を奪った。じわりと熱が伝わって、そこだけ夏が色濃くなる。

「……な、何して」

どうかしましたか、と言わんばかりにすまして笑う。真っ赤になった彼に突き飛ばされそうだったから、慌てて立ち上がって逃げた。そして彼の手は空を切る。

「っう、バニーのばか!」

少し離れたところから彼のかわいい罵声が聞こえて。不覚にも笑ってしまった。

「おじさん、また一緒に来ましょう!」

だから風と波と夏とにかき消されないよう叫ぶ。今年の夏も、来年の夏もこうして二人で過ごそう。彼は一瞬ぽかんとし、それから日焼けのような不機嫌さを残したままで頷いた。


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