kiss me now


「Ahー…」

とある午後。
伊達政宗は部屋で一人、頭を悩ませていた。数十分前から頭を抱えたり、うんうん唸ったり。そうかと思えば突然机に突っ伏したりしていた。その原因は彼が突っ伏した机上にある。

「無理だ。終わる気がしねぇ…」

そう言いながら政宗は大量の書類の中から一枚を取り、紙飛行機を作った。政宗の手によって投げられた其れは、ふわふわと宙を漂って障子に当たり、落ちた。

「そもそも何でこんなに書類があんだよ」

正確には政宗が今まで職務に就かなかった為に、貯めに貯まった書類達であるのだが、政宗は気付かないふりをしていた。
しかし遂に、家臣であり己の右目でもある片倉小十郎の堪忍袋の緒が切れ、部屋で一人仕事して下さい。と頭を捕まれながら言われたのだ。
因みに、部屋に一人とか何だよ。無理。絶対無理。小十郎不足で滅びる。って言ったのに見事に無視さた。
まぁ、照れ隠しなんだろうがな。All right.分かってるぜ、小十郎。

「よしっ」

何かを決心した政宗は、ポイッと筆を投げ出す。そして、襖に手を掛けた。

「こじゅ……アァ?」

スパンと勢い良く襖を開ける。途端、政宗の眉が上がった。襖を開けた先に柱があり、其処に張り紙があった。

“終わるまで出てきてはいけません”

「………」

己の右目の用意周到さに、政宗は言葉が出てこない。つまり政宗の行動は、小十郎にとって想定内だった訳だ。

「……OK.そっちがその気ならこっちにも手があるぜ」

ニヤリ。政宗の口端が上がった。張り紙に手を伸ばす政宗は、どこか楽しそうな目をしていた。


***

ドドドドッ…

「あ?」

自室で仕事をしていた小十郎の耳に、廊下を走る音が聞こえた。明らかに部屋に近付いて来る足音に疑問を抱く。その間に政宗は、走った勢いそのままにスパンと襖を開けた。

「小十郎ーっ!!」

「ま、政宗様!? 」

そして又もや止まることもなく、勢いそのままに部屋に飛び込んだ――否、小十郎に抱きついた。

「うをっ!」

バサバサと机上の書類が散らばる。其の中には、本来なら政宗がやらなければならない仕事も入っていた。小十郎はこっそりとやっているつもりなのだが、実は政宗は知っている。只、本人には言っていない。
だって何だかんだ言いつつも、結局は俺のことを考えてくれるんだぜ。もう可愛くて仕方ねぇ。

「……政宗様。もしやもう終わったのですか?」

「いや、飽きた」

即答してやれば、小十郎の顔に青筋が出来る。

「飽きた、ではございません! まだ数十分しかたっていないのですよ」

そう。実は政宗が部屋に閉じ込められてからまだ10分程しかたっていなかった。だが、それでも政宗にとっては長いという。

「それに張り紙をしておいた筈ですが」

「Ha! んなもん破り捨てたに決まってんだろ」

「……」

これまた即答。しかも、どーん。という効果音がオマケ付き。
流石の小十郎もそれは想定外だったようで。言葉よりも先に溜め息が出る。

「全く…。貴方という人は」

「仕方ねぇだろ、小十郎に会いたかったんだからよ」

そう言いながら小十郎の頬を触ると、肩がぴくりと跳ねた。そして反射的に止めようと伸びて来た手を、反対の手で掴んでやる。

「たった数十分でも、小十郎が傍にいないだけで仕事にならねぇんだ」

目を見て真っ直ぐそう言えば、小十郎は少しだけそっぽを向いた。

「ふざけたことを仰ってないで、仕事に戻って頂きたいものですな…」

言葉は何時も通りだが、小十郎の頬が微かに染まっている。
照れてるっ。照れてるぞ、こいつ。可愛い過ぎるんだけど。どうしよう、目の前にangelがいる。食べていいのか。OK .いいんだよな。

「こじゅたーん!!」

「こじゅたっ…?! なんですかそれは!?」

自問自答で答えを導くことに成功した政宗。数十分部屋に閉じ込められていたからか、その頭の中は既にオーバーヒートしていた。
誰も政宗を止めることは出来ない。小十郎が「ご乱心召されるな!」と、顔を掴んでも止めることは出来ない。いくら政宗の口が鮹口になろうとも、止めることは出来ないのだ。

「ほふーほぉ! はほうへ!」

「何を仰っているのか分かりません」

何を言ってるのか分からないのは、自身が顔を掴んでいるせいなのだが、小十郎も必死である。すると政宗が小十郎の手を取り、カバリと顔から外した。

「じゃあ、何言ってるか分かれば良いんだな? 小十郎ヤろうぜ! よしヤるぞ!」

「誰がそんなこと言いましたか! それにまだ昼間ですぞ」

「夜なら良いのか?」

「そういう意味ではございません!」

「キスするか?」

「人の話を聞いて下さ、んっ…」

質問の答えは聞かずにキスをする。 驚いた小十郎は後ろに下がり、距離をとる。

「誰がして良いと言いましたか!」

「Ahーn? 俺から見たら小十郎の顔には何時も書いてあるぜ?」

ぐいと小十郎の服を掴んで、距離を詰める。丁度、小十郎の耳元に唇が当たるか当たらないかの所で止まって、言葉を続けてやる。

「Kiss me now . ってな」

「か、書いてある訳がないでしょう!」

先程より声がでかくなったのは、照れてる証拠。耳まで染めちまって。本当に可愛いなぁ、おい。

もぞもぞと頑張って動く小十郎にまた愛しさを感じつつ、俺は真っ赤な耳にキスを落とした。



20120327






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