双竜心
「小十郎」
「いかがなさいましたか、政宗様」
「エネルギーが足りねぇ」
「……は?」
とある正午。仕事中。 動かしていた筈の手が、ピタリと止 まった。そして、自然と口から零れた 言葉はそれだけだった。多分これが今の俺の精一杯。というか、これ以外に思いつかない。
「一体、何を」
仰っているのですか。 という言葉は、自然と喉で止まってしまう。振り返ったすぐ目の前に、その原因があった。……何故こんな近くにおられるのだろう。
「だから抱き着かせ――ぶっ」
理由が明らかになった所で、反射的に目の前に紙束を持っていった。勢いのまま、政宗様の顔が紙束に埋まる。
「ッ何しやがる!」
「それはこちらの台詞です」
「だから小十郎不足で死にそうって言ってんだよ」
「何を仰います。つい数十分前にもそう言って、絡みついてきたではないで すか」
「だってお前止めただろ」
「当たり前です」
「まぁ小十郎はshyだからな」
「違います」
「OK.分かった。後ろから抱きつくで 勘弁してやる」
「人の話を聞いて下さい」
おかしい。会話が成り立たない。俺は 政宗様に言語というのを教えた筈だ。 一体どこでどう育て間違えた。
「とにかく、仕事に戻って下さい」
「そう固いこと言うなって…」
「っ!」
もうこれ以上何を言っても無駄そうな ので、無視してやろうと背をむけたの が間違いだったらしい。背中を触ってきやがった…!
「……政宗様」
「小十郎――んがっ!」
「い い 加 減 に し て 下 さ い」
どんなに言っても無駄そうなので、実 力行使。迫ってくる自身満々の顔を、 利き手で掴んでやった。政宗様の顔が ちょっとアレだが、まぁこれは不可抗でもあるし、勘弁してもらいたい。
「全く。ご乱心召されるな」
政宗様が俺の腕を叩かれたので、力を 込めていた手を緩める。するとガバッと外された。
「Ha! お前相手ならいくらでもご乱 心になれるぜ、俺は」
「意味が分かりません」
外した顔をもう一度掴んでやろうか。はぁ。とあからさまに溜め息をつけ ば、今度は傷ついた顔が視界に入る。……全く、この方は。
「政宗様」
「アァ?」
良いとは言えない目付きを更に悪くし て睨まれた。明らかに機嫌が悪い証拠。
「んだよ」
「…もしそれが今日中に終わったら、 考えて差し上げましょう」
しかし結局はこんなことを言ってしま うのだから、俺自身も相当政宗様に乱心、らしい。
双竜心
(小十郎終わった!)(……普段からこの位早ければ良いのに)