信じるもの


「すいません、政宗様。畑が俺を呼んでいます」

「ア?」

「では、失礼」

そう言って、小十郎はベットから出て行った。パタンッ。扉が閉まる音だけが、虚しく部屋に響く。

「……Shit ! 面白くねぇ」

俺は扉を睨みつけた。まぁ、いくら睨みつけたところで、扉は扉のままなのだが。そうせずにはいられなかった。
何せ、昨日から今日に掛けて身体を交えた相手だというのに、朝になったら即、畑だぞ。どれだけ畑好きなんだよ。くそ、頭に手拭いを巻いた小十郎とか考えただけてtension上がるぜ。…って、そうじゃねぇ!

ボスンッ。枕を一発殴りつける。そしたら、ふとある考えが頭を巡りピタリと止まった。

――Ha! だったら俺もやってやるぜ? 小十郎。

そうと決めたら即行動。俺は勢いよくベットから降り、携帯を手に取った。


**


「小十郎。真田んとこ行ってくる」

「またですか?」

yes.と答えてニヤリと笑う。それに対して小十郎は溜め息を溢した。
俺は最近よく出掛ける。勿論、わざとだ。
小十郎が畑ばっか行ってんだったら、俺だって遊びにばっか行ってやる。そしたら小十郎が嫉妬して甘えてくんだろ。甘えてくる小十郎とかマジangelだぜ!
これが政宗の狙いだった。本人曰く、完璧なplanだと思っている。完璧かどうかは別として。

「全く、貴方という人は…」

やれやれというように、また溜め息。
そして何かを言うように再度口を開く。

来た。きたきた。

「…たまには小十郎も構って頂きたい」

そう顔を紅くしながら言ってくる。そうなんだろ、小十郎! くそう。可愛いな。OK.構ってやるぜ。come on! !

まぁ勿論、想像の世界であるが。しかし、政宗は小十郎がそう言うと確信してた。どこからくる自信なのかは分かんないが、とにかく確信していたのだ。

「遊ばれるのは構いませんが、課題をやってからにして頂きたい」

しかし小十郎から返って来たのは、政宗が想像したものよりも遥かに遠いものだった。
知らず知らずの内に、政宗の頭に血が上っていく。なんだよ……構わないって…なんだっ…!

「小十郎…」

「なんです――うおっ!」

気付いたら小十郎を押し倒していた。まさか押し倒されるとは、思ってもみなかったのだろう。いつも以上に簡単に。政宗は小十郎の両手を掴んで離さない。

「……なんだ。小十郎は俺が真田や長曾我部と遊んでもどうとも思わねぇ、ってのか?」

自分でも驚くような低い声だった。小十郎の目を真っ直ぐ見つめる。いつもと違う雰囲気を感じたのか、小十郎が暫く質問の意味を考える。そして開口一番。

「当たり前でしょう」

かああ。頭に血が上っていくのが分かった。当たり前ってなんだよ。そう言おうと口を開く。しかしそれよりも、小十郎の方が早く言葉を続けた。

「この小十郎は貴方を信じているのですから」

きょとん。そんな効果音がぴったりだった。その間にも小十郎は、やれやれと溜め息。思わず掴んでいる手を離した。
政宗の口元が緩んでいく。だってこいつ気づいてない。自分が相当恥ずかしいことを言ったということに。

「小十郎。お前、今恥ずかしいこと言ったの分かってるか?」

最初は何を言っているのか分からないようだった。口元に手を持っていき、真剣な顔付きで考える。
しかし暫くすると質問の意味が分かったらしい。口元に手を置いたまま固まり、一瞬にして頬が紅に染まった。

「そ、そういう意味ではございません!」

「Ahーn? じゃあどういう意味だ?」

「それはっ……!」

駄目だ。真っ赤になりながらもぞもぞ動く、こいつが可愛い過ぎる! 小動物か! 小動物なのか!

「だったら大型の俺が食っちまわねぇとなぁ」

「は? それはどういう意味で……ま、政宗様!」

政宗の急速な思考回路など、流石の小十郎でも分かる筈もない。
珍しくわたわたしている小十郎にキスを一つ。不意討ちの其に、また小十郎の頬が染まった。




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20120411






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