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こんにちは。
はじめましての方ははじめまして。
私このサイトの中心人物、奏梗学園生徒会長、九条零夜の父で、九条壱夜と申します。

今回は私の息子、零夜の幼い頃の話をさせて頂きます。

 

 

あれはそう、あの子がまだ5歳くらいのことでした。
零夜は私の妻(あの子の母親)アリアに似て、生まれつき身体は丈夫ではなく、しょっちゅう喘息を起こしたりして手を焼いたものです。
そのせいもあるのでしょうか。私はあの子に甘々で、あの子の望みは極力叶えてやろうとしていました。友人には今でもよく親バカだと笑われます。

ある日、零夜を連れて近所を散歩していたら、あの子が不意に何かに気づいたように立ち止まったんです。何かと思い耳を澄ませてみると、どこからか、愛らしくもか細い声が聞こえてきます。
零夜が私の手を引き、音のする方へと歩き始めます。なんとなく予想は出来ましたが。

 

『…ねぇお父さん、この子。』
 

春キャベツの段ボールに入れられ、痩せた子猫は私たちに気づくと甘えたように鳴き出します。

『……』

正直、こんなベッタベタな捨て猫を見たのは初めてで、私も唖然としてしまいましたが。零夜がそっと触れると、猫はゴロゴロと喉を鳴らし甘え始めます。
そんな子猫を見て、零夜はパァッと目を輝かせ…

 

『ダメ。』
 

なんて言えますか。

 

 

 

『母様! 猫!猫だよ!!』

急いで猫について調べて、エサ買ってトイレ買って念のためお医者に見せて…
猫って大変なんだな。なんて思っても、実に嬉しそうな息子の顔を見てると、そんなことなど、どうでもよくなったものです。

 

 

しかし、

『コホッ、コホッ…』

よくる朝、猫を抱きながら背を丸め、咳き込む零夜を見つけました。

『…零夜?』
『!』

びくり。

と、大きく体が跳ね、こちらを振り向いたその目は真っ赤で、顔は僅かでありましたが、腫れてもいました。

それが何だか、分からない程無知ではありません。
子猫を取り上げ、私は慌ててあの子を医者に連れて行きました。

 

 

『典型的な猫アレルギー…ですね。』

症状が遅れて出たようですが、これからどんどん酷くなりますよ。
喘息も悪化するでしょう。


そう医者からは告げられました。

 

零夜にどう説明すればいいのか。
そして、あの子猫をどうすればいいのか。
今以上に親として未熟だった私は、頭を悩ませたものです。

 

 

 

『お父さん!ニーちゃんは!?』
『……』

家に戻るより早く、執事に猫を出してもらい、家中が洗浄されたのを確認してから帰ると、零夜はすぐさま自分の部屋から子猫がいなくなっていることに気づきました。

零夜。
ニーちゃんの毛はね、零夜の咳によくないってお医者さんに言われたんだ。
だからニーちゃんは、うちじゃ飼えないんだよ。

何度も何度も、根気強く説明しました。
零夜が納得してくれるまで、何度も。

しかし、たった1日でこれほど情が移るものなのでしょうか。
零夜は泣きじゃくって、決して私の言うことを聞こうとはしてくれませんでした。

 

『父様なんか大っ嫌い!!!』

 

ガン!
と鈍器で頭を殴られたようなダメージは、今でも忘れられません。
言われた言葉も勿論相当ショックでしたが、

昨日まであんなに嬉しそうな表情を浮かべていたのに。
アレルギーではない、涙で真っ赤になった目でそう言うあの子に、
何よりも、胸が痛みました。

 

子猫は結局知人に引き取って貰えましたが、それから暫く、零夜は私と口も聞いてくれようとしませんでした。

 

 

 

アレルギーというものは大人になるにつれ治る場合もあるらしく、最近零夜の学校に猫が出没していてみんなで可愛がっているということを聞きましたが、どうやら以前のようなアレルギー症状は出ていないようです。

「あ、猫。」

 

時折庭に現れる野良猫を、零夜は嬉しそうな顔をして眺めます。

私は、あの時の事を後悔はしていませんが、今でも零夜には誤解されたままだと思うと

少し、心苦しかったり…


「……。」

といっても、零夜はもう忘れてるかもしれませんけどね。

「……、お父さん。」
「え? あ、どうしたんだい、零夜。」
「お願いがあるんです。」
「? 何?」
「今度、ニーちゃんに会ってみたいです。」

「………」

 

え?

 

「ちっちゃい頃、僕が拾ってきて、1日だけ家にいた子猫がいましたよね。」
「…覚えてたんだ。」
「そりゃ忘れませんよ。」

困ったように、零夜は笑う。

「ちっとも聞き分けがなくて、今以上に子供で。
…でも、もう咳もくしゃみも出なくなりましたよ?」
「……。」
「お父さんの知り合いの方の家に、まだいるんですよね?」
「うん、」
「会っても、いいですか?」

 

 

 

「……うん。」

 

 

パッ
と、あの時と同じ笑顔で、零夜は笑う。
子猫を家に連れて帰った時の、あの顔で。

 

 

恨まれてると思ってた。
でも、それはこの子に対して酷く失礼なことだったのかもしれない。

ねぇ、零夜。
君は私が思っていたよりずっと

大人になっていたんだね−−。
 

 

 

 

私はやっぱり
相当な親バカのようです。

 

end...

 

 

→後書き
 



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