短い夢 | ナノ

飛んで火にいる夏の・・・

「じゃあ、始めますね」
「・・・どうぞ」

静かに返された言葉にイオは、一度ごくんと喉を鳴らすと、おずおずと手を伸ばして目の前にある小麦色に焼けた肌に触れる。確かに温かく熱を持っているのに、まるで硬質な鋼のように硬い腕に思わず息を呑んだ。一度触れてしまえば、後はもう躊躇うことはない。ペタペタと、マスルールがなにも言わないことをいいことにイオは、その腕から首もと、肩の線を触りまくった。

「すごい!さすがマスルール様ですね。こんなに硬い筋肉初めてです」
「・・・どうも」

興奮した声でマスルールに告げればやはり彼は素っ気ない声で小さく頭をさげる。「もっと触ってもいいですか?」と尋ねれば無言で頷いてくれたのでイオは顔を綻ばせて、またその堅い筋肉の感触を確かめ始めた。一通り、上腕二頭筋を始め、背筋、腹筋、大胸筋、大腿筋まで触りに触って満足すると、ホクホク顔で「ありがとうございました」と笑うと頭をさげる。

「いえ、別にいいっすけど・・・。楽しいんですか?」
「そりぁもう!だって自分にはない、未知の身体ですよ?触っているだけで凄く楽しかったです!」

しかもそんじょそこらの筋肉ではなく、天下の戦闘民族ファナリスのものだ。温かい鋼のような強靭な体は素直に感心する。

「それじゃあ、マスルール様本当にありがとうございました。」

もう一度深く頭をさげると、イオはくるりと背を向けた。
いや、向けようとした。
身体が自分の意思とは裏腹に動きを止めて、何かしらと目を瞬いてみれば、肩に手がおかれている。全く力を込めてなさそうなのに、ぴくりとも動かない身体に驚愕しつつ、何かあったのかと視線をマスルールに合わせれば、そこには感情の見えない瞳がじっと此方を見つめていた。

「どうかしましたか?」
「いえ、細いっスね。肩。・・・・それに、柔らかい」
「私運動オンチで、全く筋肉とは無縁でしたから・・・」

少しだけ照れたように指で頬をかきながらそう告げれば、マスルールは無言でコクリと頷いた。

「俺も初めて触りました。こんな柔らかい身体。」
「マ、マスルール様・・・?」
「確かに、面白いっスね」
「きゃあっ!」

肩から移動した手がふにふにと二の腕に移って、何かを探るように揉まれる。太い堅い指が肌を撫でる感覚に思わず悲鳴に似た声をあげてしまったイオに対して、マスルールは動じた様子もなく腕の当たりをさわり続けていた。

「あの、マ、マスルール様・・・、その、離して・・・」
「でも、イオさんは触りまくってましたよね。俺の体。」

澄んだ赤い瞳でじっと見つめられて、イオは、思わず言葉を飲む。確かに触りまくっていた。それどころか、ちょっと、大胸筋を動かして貰って「すごーい!」と喜んでさえいた。

「なら、俺も触ってもいいっすよね?気になってたんです。あんたの身体、どんな触り心地なのかなって・・・」
「ま、待って・・・!」

思わずマスルールの手を掴むが手の甲まで堅く熱い感触に息をのんだ。

さっきは、ここまでマスルールの手は熱くなかったはずだ。

何故と、思う前にぐっと手を取られてまじまじと手のひらを見つめられる。

「こんなとこまで柔らかいんスね。・・・早くもっと教えてください、イオさんの身体。」
「・・・っダ」
「ダメは、無しっすよ。さんざん俺の身体触ったんすから」

その言葉に、二の句も告げられずに、イオはこれ以上無いほどに頬を赤くして、大きな手が近付いてくるのを、泣きそうな瞳で見つめていた。



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