ごくり、隣りから鍔を飲み込む音がして俺はちらりと目をやった。眉をハの字にさせがりがり頭を掻くどう見ても色のあるようには見えない女隊士、雪村名前。
「で、ど、どうすんだよ」
「どどどうしたらいいんだろう・・・?」
相当困っているらしく、俺の腕を掴み激しく揺さぶられる。いつものあの陽気な笑顔はなく空いてる片方の手の中の物を握りしめていた。 恋文を何者から受け取ったと言うのだ。
「そんなこと俺に」 「龍之介の裏切り者!」
手首を力強く掴まれた俺はこの新選組唯一の女隊士の部屋に腰を下ろす。こいつあり得ないぐらい力強いが、本当に宛名あってるか?
「で」
真剣な眼を彼女に向けるとすぐにその文を俺との間に置いた。そしてぴんと背筋を伸ばして俺を見つめる。
「朝、目を覚まして部屋の外、襖の前に落ちてた」
「落ちてたんならあんたか分かんねえだろ」
千鶴もいんだし、と溜息を吐けば違うとはっきりと断言した彼女。
「な、なんでそんなこと言いきれんだ」
「千鶴ちゃんに宛てたような内容じゃないから」
上目ではいと手紙を無理矢理渡らせる。俺は大人しくその渡された恋文へ目を向ける。最初から甘ったるい台詞を置き、最期は飛び切り甘い台詞で締めくくる。そして内容は任務の時から鍛錬の間のことまで。 確かに千鶴宛てじゃ、ない。
「違うでしょ?」
どうしたらいいんだろう。あたしこんなの貰ったことないから分からないんだよねー 先程から何一つ変わらない困った顔のまま、まさに苦し紛れにと言った笑顔を浮かべていた。俺も何となく恥ずかしくなると頭をぼりぼり掻く。
「・・・名前」
いるのか。 二人黙ってそれを見つめて黙り込んでいると、不意に無機質な声が部屋へ届いた。 びくりと反応をした俺と名前さんは例の物を懐に仕舞い込み、襖を開ける。
「どうし・・・あ!」
巡察、と小さく零された単語と同時に溜息が聞こえた。
「あんたは自分の仕事もまともに覚えられないのか」
「ご、ごめん」
しゅんと肩を落としている彼女を一瞬見てから、三番隊組長は先に歩いて行ってしまう。
「龍之介、ありがとう!」
ご丁寧に手を握り、笑顔で礼を言うと彼女は走って組長を追いかけていた。「一くん、待ってって!」って、どれだけ無礼者なんだよ、と苦笑いを零した後ふらふらと部屋を出る。
それから偶々通りかかった源さんに顔が赤いと指摘された時は本当に焦った。
(笑顔の似合う人だ)
20101128//伊吹
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