最近、総司は名前に優しくなった。(ように見える)いや、俺のこの目は間違ってねえはずだ。 どう見たって仲が良く映る。まあ、それはそれで総司の奴にとってもいいことだろ。昔からあいつは避けられやすいからな。
「だから止めてって!」
止めてー! と女の声が聞こえてすぐに名前だと分かる。どうせ新八とか平助とか総司・・・は分かんねえな、とにかくその辺りに遊ばれてんだろう。
はあ、と溜息をつく。屯所が賑やかになったってんのはいいかもしれねえが、俺の仕事に関わりやがる。苛々としてきた俺は襖を開けて外へ出ていく。一発文句言ってやんねえと。
「おいおま」 「梅の花は 一厘咲いても 梅は梅」
声の後、自分でも吃驚するような速さで総司の襟首を掴んでいた。たまたま隣りいた名前は何だそれ、と言いたそうな顔をしながら俺たちを見ていた。
「おい名前!それは最近土方さんが熱心に詠んでる詩だ。」 「テメエ総司!また俺の俳句集を・・!」
物陰から隠れて新八が言ってんのを半ば無視して総司を怒鳴る。それでも隣りにいる女はじっと俺を見ていた。
「何だよ、名前」
邪魔だと言わんがばかりに言うが女は気にするでもなく俺に言葉を返す。
「もしかしてこの詩上手くないんですか?」
そんな風には聞こえませんでしたけど。 そう言うや否や豊玉と書かれた一冊を膝の上に置いて開く。俺は総司を放して隣りに腰を下ろす。いくら正体不明で平隊士の女だとしても褒められちゃあ悪い気はしない。
「春の季語が多いですね。土方さんは春が好きなんですか?」
暫くそれを読んだ後、呟かれた言葉にああ、と返す。 それから桜が一番好きだ、と付け足す。すると名前は慌てて俺を見た。
「あたしも好きですよ、桜」
綺麗ですよね、毎年近所の桜並木で宴会やってました。と目を細めて微笑む。それには俺も一瞬目を見開いた。まさか、こいつがこんなに綺麗に笑うなんて思ってもいなかったからだ。俺の中ではこいつは品が無いからな。
「丁度いい、お前も詠んでみろ。」
「桜で、ですか?」
今、桜は咲いていないから好ましくないんじゃ、と続けた名前の言葉を遮って何でも構わない、と言う。 すると顎に手を置いてうんうん、唸りだした。本当に素直な奴だな、と改めて思う。いつも幹部の言いなりになっても頷く。そして何でも鵜呑みにする。いいところでもあり悪いところでもある。
だが、そんなところが俺達を引き付けるのかもしれねえ。
「で、出来ました!」
ぴん、と背筋を伸ばして俺を見る。それから庭を見つめて息を吐いた。
「こころから 出た言葉は 心(ここ)に届く」
しんとその場が静まりかえる。当たり前のことを詠んだ詩だ。だが確かにこいつらしい。 クツクツと笑みを溢すと初めてなんだから仕方ないじゃないですか、と顔を赤くして怒り叫んで飛び出して行っちまった。 背後に気配を感じながらはあ、と溜息を吐く。詩は人の中身が出る気がする。つまりあいつはああ言う風に思ってんだろう。
(だから詩は止められねえんだよ)
20100906//土方
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