あたしは夢を見ていた。
真っ白の中にぽつんと立ってる。それはいつものことでまるで現実でも自分は一人なのだと知らせているようで怖かった。何度も見るこれはいつも変わらない。
目の前に一くんがいて。
真剣な眼差しをあたしに向けた後くるり、と踵を返してゆっくり歩いていってしまう。
遠ざかる彼の背に手を伸ばしてみるも手は空をかく。精一杯手を伸ばせば届くだろう。しかしそうはしない。
何故か近くにいる筈の彼は肉体的距離なんかよりも数倍遠くにいるように感じられて


「はじ」



一くん、そう名前を呼んでいる途中でいつも目が覚める。
今回もそれは変わらなかった。丁度三月頃、一くんと平助が新選組(ここ)を出て行った日から何も。
あたしは身体を起こして伸びをする。隣りには小さい少女がすやすやと気持ちよさそうに眠っていて、あたしはそっと頭を撫でた。それからすぐに部屋を出る。





「珍しいね、名前」

朝餉を作っているあたしを珍しいと好奇な目で総司くんが見つめていた。今日も意地の悪そうな目をどうもありがとう、と思いながら野菜を刻んでいく。

「早く目が覚めたからねー」

それから偶には(たまには)千鶴ちゃんもゆっくり寝たいだろうから、と笑みを浮かべる。最近はますます彼女に家事をまかせっきりで申し訳なく思っていたところだから丁度いい。

「一君、元気かな」

千鶴ちゃんの話をしているのに突然夢の人の名があがって、ぴくりと思わず反応してしまう。まさかこの流れで彼の名前が出てこようとは思わなかった。あたしははぁ、と呆れたように溜息を吐いて振り返る。

「総司くん、彼とはもう関係はなくなったんだから気にすることないでしょ」

「嘘ばっかりだね。君は」


あんたに言われたくない、と言おうと口を開いて止めた。なんだか、憂いを含んでいる目をしていたから。数秒、彼を見上げてから微笑む。

「総司くんもね。」

それからあたしの羽織を彼の背にかけてやる。死んでしまうような、病だなんて彼を見れば分かってしまう。日に日に覇気が無くなっていっている身体は正直だ。


「さあ、広間で待っててよ。千鶴ちゃんと一緒に運ぶから」

背を押してやると大人しく彼は歩いて行った。


・・・

「見えも聞こえもしない、不思議」

それとなく今自分の心の中に浮かんだ言葉を言ってみる。日が落ちて月が上ってきた頃、外に出る階段の段差になっている一番上に腰を下ろして夜の風情と言うものを眺めてみた。でも、全然風情とか感じられないなぁ、と一人素直に思ったことを口から溢す。
病んではいない、六月になってこの蒸し暑さが寝苦しいから涼しくなるまで待っているのだ。これはあたしの一種の癖でもある。


ひゅう、と冷たい風が頬を掠める。もうそろそろいいだろうとあたしは腰を持ち上げて部屋へと向かうことにした。





「あなた、鬼なの?」

ぽかんと口を開けた。部屋に入ると千鶴ちゃんともう一人いかにも上級階級の少女がいて、その少女があたしを見てそう言ったのだ。
そう言えばこの子、いつかの巡察で助けた子じゃなかったか?


「はい、まぁ、鬼です」

その場に腰を下ろして彼女を見る。

「もしかして、名前さん・・?」

「そう、ですけど」

何ですか、と言う目で彼女を見つめる。千鶴ちゃんは何がなんだか分からないと言うような目であたしと彼女を見ていた。それにしても、この子の名前分からないな。

「特別鬼の血が濃い、と聞いたのですが」

「そう、らしいですね。」

風間が言ってました、と付け加えると彼女は大きく目を開いた。あれ、あの鬼はそんなに驚かさせる程の鬼なのか。まあ、屯所でしかも羅刹の死体の前で口説くような奴じゃそうなのかもしれないなー。

「風間と接触しているのですか」

「そうですね、池田屋の時に刃を交え次に口説かれました」

断りましたけど。と平然な顔で言えば彼女は冷や汗を流しながら流石ね、と声を漏らした。
それから小さな声であなたも我々と来る?と尋ねられた。一瞬、考える。きっと彼女も鬼なのだろう。何となく鬼と感じられる何かを風間同様彼女も持ってる。そして彼女は何らかの理由で千鶴ちゃんとあたしを屯所から身を引くようにと言っている。それもいい、そう思ったが小さく首を振った。
千鶴ちゃんを守る。そして彼女は総司くんに思いを寄せているのであれば行かないだろう。だからあたしも行かない。


じっと彼女を見つめると何かを感じ取ったのか仕方ないわね、と言って広間へと戻って行った。あたしは部屋に残るもう寝たいからだ。

次の日、土方さんに昨夜どこに行ってたのかこってり叱られることになるのはまだ知らなかった。



「ひ、土方さん・・・!」
「うるせぇよ、黙って歯ぁ食いしばれ」
「ま、待って待って!あたしまず呼ばれてたの!?」
「当たりめぇだ、鬼だろうが」
「すいませんでした!」
「あ、名前!待ちやがれ!」

「まーた何かやってるぞあの二人」
「まぁ、放っておけばいいんじゃないですか?左之さん」



20100818//嘘をつく




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