ここ何日か一くんと過保護な土方さん二人が休養をとるようにと隊の仕事はなかった。今考えてみれば一くんはあたしが苦しんでいたあれを見ていたのかもしれない。だから土方さんと同じ口調だったんだろうか、と部屋の中で考えていた。そして午前中、漸く隊の仕事に復帰できたあたしは三番組の皆と千鶴ちゃんとで巡察に向かっていた。

何かおこらないかなー、と頭の後ろで手を組みながら歩いていると、本当に起きた。確かにずっと部屋にこもりっぱなしだったから働きたかったけどさ。


「ああ? テメェ邪魔する気か?」



・・・これはないよね。
千鶴ちゃんは町人を脅す浪士達の輪に駆け込んで行ったものの腰が浮きだっていてどうみたって可愛い子犬が威嚇してるようにしか見えないよ。
ちらりと隣りに視線を送るが肝心の三番組組長である一くんは同時に起こった事件のほうへ行ってしまって不在だ。こうなればあたししか対抗できる者がいなくなってしまった。

はぁ、と溜息をついている間に浪士たちが刀の柄を掴んだ。


「テメェ斬られてぇのか! あ!?」

浪士が刀を抜く動作に入った瞬間、あたしは正面から首に刃を添える。ぴたりと彼らの動きは止まった。


「し、新選組の・・!」

「この子に刃を向けるってことは・・・どういうことか分かってんだろうね・・・」

あたしより二回り程横に大きいが背は変わらない、そんな浪士の耳元で低く呟けば安易に震えを見せた。

「あたしとしちゃあ、お前一人斬ったところでどうって事無いんだけどね。」

「ひぃっ!」

悲鳴をあげたと同時に刀をクルリと回転させ峰で首を打つ。ひょいと体を右側に避ければ、瞬間浪士が地面に倒れた。

「名前、さん!」

「千鶴ちゃん、大丈夫?」


道の端にいた人々が悲鳴をあげいるのを横目にあたしは刀を収め彼女に微笑みかける。これぐらい余裕な顔をしていないと女であり新選組のあたしはいくらでも襲い掛かられる。恨みは沢山買ってるからね。

倒れた浪士の仲間があたしを見ながら後ずさるように一歩ずつ後退させている。あたしがにこりと笑いかければ彼らは一気に走り出す。しかし、すぐに事を片づけた隊士に捕まる。


「名前、何をやっている」

「・・・・千鶴ちゃんに手を出そうとしていたから。」

一くんは倒れている浪士をちらりと見た後、目を伏せる。

「やり過ぎだ」


すいません、そう言う思いで笑顔を作った。


・・・

巡察が終わって屯所に帰ると男どもに飯飯、と言い寄られたあたしは一息つく間もなく台所に立っていた。


「それにしても・・・」


トントントンと規則正しいリズムで包丁で野菜を刻んでいる途中、あの騒動を思い返していた。助けた娘、丁度あたしと歳の変わらぬと言った風な彼女は暫くあたしを見つめていた。何かを掘り出した、と言わんがばかりに。

密偵・・ではない、のだろうか
いや、それにしては態度がデカくなったか?こちらに悟られぬようにしなくてはならないのに感づかれるようでは密偵にはないらない。
と、いうことは・・・何だ・・・?


あたしの行動か何かだろうか。
女であるにも関わらず刀を手にしているから?そんなこと後ろ姿を見ただけでもあたしが女だって分かるはずだ。彼女はあたしの顔を見て・・・
そこまで思ってもしかして、と緊張が走る。


・・・・あの時姿が変わっていた・・?
そんな筈はない。変わるときは痛みが伴うはず・・・



「どうしたんですか?」

名前さん、そう心配そうに千鶴ちゃんがあたしの名前を呼んだ。はっと我に返ると包丁を持つ手は止まっていて、また再開させる。

「なんでもないよ。あいつらは飯飯うるさいなーって」

ヘラヘラと顔に笑顔を張り付ける。きっと千鶴ちゃんにその行為は無駄であるだろうが、踏み入られたくない領域だ。防線、境界線の変わり。聞かないで、と伝えるための。


「・・・ふふふ、仕方ありませんよ。皆さんと私たちでは胃の大きさが違います」

「どうだかねー」


よし、じゃあ今日は一くんに突撃でもしようかな!千鶴ちゃんがさっきの事を忘れるように調子に乗って話を逸らせた。そしてげらげらと笑いながら昼食を作る。
後で言わなければよかったと後悔したのは言うまでもなくのこと。





「すいませんでした一くん。それ(魚)返して」
「名前が悪い(もぐもぐ)」
「−!(魚返せー!!)」

「暫く馬鹿してなかったのにな」
「いや左之さん、名前のあほが治る訳ないって!」
「みんな酷い扱いしてるよね、案外。」
「総司、お前は黙ってろ」
「はいはい」



20100706//恐いから振舞うんだ




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