うんうんと二三度目を閉じたまま眉を強張らせてからゆっくりと瞼を上げた。それからゆっくりと体を起こしてここは自分の部屋ではないことに気が付く。
「ここ、どこ?」
まだ覚醒しきっていない脳で必死に思い当たることを考えるが何一つ浮かびはしない。あたしは頭をがしがしと掻いて溜息をついた。
「起きたのか」
目を伏せた時だった。すっと襖が開いて一くんの声がして初めてここが彼の部屋だと分かった。あたしはありがとう、とお礼を述べるが彼はどこか納得のいかないと言うような顔であたしを見ている。
「何故昨夜名前は・・・」
「ん?」
「いや、なんでもない。」
それから一くんは昨夜、山南さんが変若水を飲んだと知らせてくれた。山南さんは大丈夫なの?と不安になって聞くとあぁ、今は落ち着いている。と彼は安心しろと言うように少し笑った。
「千鶴ちゃんは?」
心配してくれていたのだろうか、そんな気持ちで問いかけるけれど何も言わずに一くんは首を横に振った。暫く彼の行動に訳が分からなかったが、ぴんと思い立つ。
「目撃・・・者?」
山南さんの。 抜け出していたのだとしたら納得がいく。いつもあたしが部屋にいるしきっと山南さんを見に行くなんてこと言えないから。
「名前」
大丈夫かな。千鶴ちゃん、土方さんに締め上げられてないかな。部屋に閉じ込められていないかな。そんな不安が一気に押し寄せてきてあたしは眉間に皺を作っていたが一くんの声にふっと我に返る。 そしてあたしの名前を呼びながら悲しそうな安心させるような、笑っているような顔でじっと見ていた。それには一瞬で顔に熱が集まる。 どう見ても綺麗で、そして好きな人なんだ。
「名前、あんたは自分をもっと大切にしたほうがいい」
「大切にしてる!」
「どこがだ馬鹿」
一くんはぺちんとデコを手の甲で叩いてそのまま部屋を出て行った。あんたは自分の部屋で寝ろと言わんがばかりの顔であたしを見てから。
20100703//美しい想い人
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