今日もここ、奥州は快晴を迎えていた。おかしな格好だと、敵であろうが味方であろうが目立ってしまい、さしも城内で変な噂を立てられるのも面倒だ、と言うことで着物を貰った。
まあ、私からすると誰が敵味方だとか関係はないのだがな。自分が利用されることぐらい分かっているのだから。
しかしあの伊達政宗が私の君主になるとはなあ。
色男だなんて教科書でもじーさんからも聞いた覚えはないぞ。生まれるのがもう少し早ければ、とは聞いたことはあるが。
「何やってんだ」
床を軋ませながら渦中の人である伊達政宗は、不敵な笑みを作って私の隣へ並んで座った。縁側から見る景色はやはり綺麗だな、と隣りで聞こえたが得に反応は示さなかった。
こういうところだ。
伊達政宗というこの男が城主らしからぬ行動を示すのは。
まだ日の浅い、間者だと思われても致し方ない私の傍で呑気にしている。更に付け加えるなら、私には何の仕事をも言い渡さず軟禁状態であることだ。
仕事をさせること自体が危険と判断したのかもしれないが、ただ飯にありついている身としては居心地が悪い。いや、居心地がいいのもどうかと思うが。
「絶好の春日和だからな。休息だ」
随分前の返答をして、軽く伸びをする。
まあいいさ、何もするなと言うのならば、何もしなければいい。今日は、昼寝でもするか。と一人ごちる。
「Do not seem the cat it.」
「そのような異国語、私は嫌いだ。」
突拍子もない言葉にふん、と顔を背け、それに私は猫ではない、と言ってやる。勿論、彼が話す簡単な英語くらい理解は出来る。
苦手ではないが嫌いなのだ。
「名前は生意気だな」
柔らかい日差しを浴び隻眼を細めて、木に止まった小鳥を見ている城主に、私は顔を顰めた。
実は、私を信頼していないのは分かっている。当たり前だ。
だが、言動とは裏腹に距離が感じられるのは何とも腹立たしい。当たり前だ。私と彼は違いすぎるのだから。
「よくじーさんから言われていたな。」
長くあんなじーさんといると誰でも移るっての。
城主のことなど忘れて、ぶつぶつとじーさんの悪口を言いながらも、今頃どうしているのだろう、と自分の祖父を想った。
親はともかくじーさんは心配してくれているに違いない。あんな老い耄れだが私は彼しか頼る充てがないのだ。
「それで、お前は俺に何をくれるんだ?」
俺はお前に、この世でも割と安全な場所と飯を提供してるぜ。
こいつ、ナチュラルに私の言葉をスルーしたな。さっきまでの考えは全部吹き飛んでしまったわ。
じとーとした目で伊達政宗を見てみるも、城主は気にするでもなく返事を待っている。
城主に対して失礼ではあるだろうが、私は目の前で隠すことも無く溜息をついてから何かあるっけ、と頭の中を探った。
「ああ、剣道に空手に家事・・・・後は未来」
身振り手振りで隣りの城主へ伝えれば、目を開いて口をぽかんとしている。
どういうつもりだ、と目を細めれば、伊達は咳をわざとらしくしてからSorry,と溢した。
「護身術って感じじゃあなさそうだな。武士にでもなるつもりか?」
冗談で言ったのは分かった。
だが、私は人の悪い笑みを返した。ここへ来て初めて笑った気がする。
「いいかもしれんな」
「は?」
「・・・いいかもしれんな、武士になるのも」
この城で世話になっているのだ。
どうせならここで毎日じっとしているよりも、少しでも力になれたらと思う。じーさんの教育のせいで、およそ女らしさを捨ててしまった名前にとって、女中なんぞ出来る訳もないのだから。
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