「名前!stop!」
米沢城の城主、伊達政宗は、来世からやってきたと言う可笑しな女の後を追っていた。先程、ほんの冗談で武士になるかと勧めたところ、冗談と分かっていながら了承したのだ。
その時の顔の微笑みはとても妖艶だった。
「伊達政宗」
くるり、と振り返り不敵に笑った女。思わず城主は女を見入ってしまった。織田名前と言うこの女、見た目は文句の言いようが無く美しいのだ。
「私はただの好奇心で武人になろうと言っているのではない」
切れ目だが女特融の少し大きな目、長い睫。話す度に動く唇は何とも欲情をそそった。
政宗はじっと名前を見つめ、吟味する。
「ここにいる限り、あなたの世話になる。ただ飯を食わせて貰うには私の気が引けるのでな」
勿論、死んだときは仕方無いと思っている。この時代は乱世なのだろう?
この世を受け入れなければ、乱世など到底生きてなど行ける筈もない。私はそう心中考えながら伊達を見る。
切れ長の綺麗な目が私を写した。
どうしてか、この男の瞳は酷く私を虜にさせる。
数分か、それとも数十秒だったか。暫く二人は黙って見つめ合っていたが、男は口元を釣り上げ片目が細められた。
ぞくりと背中に悪寒が走る。何か企んでいるに違いない、と身構える前に伊達は私の手を引いた。
◇◇◇
「な、何がしたい?」
稽古場に二人、私と城主だけがいた。
私の問いかけには応えず、その代わり目の前に木刀を放った。私はそれを数秒の間、見遣った後木刀を握る。恐らく力試しと言うところか。
「やあ!」
がつん、がつん、と木と木が交差する。
(的確に俺の死角を狙ってくる。中々の手練れってわけか)
「はっ!俺もつくづくstrangeな女を招き入れたもんだぜ!」
お互い一歩も引かず、熾烈な戦いとはこのような戦いなのだと思った。攻めるように木刀を振り下ろしても次は防御に回らねばならない。
全く、恐ろしい女だ。
「変な訳なかろう!」
だむ、と床を踏み鳴らして木刀を振り下ろされる。それを弾いて今度はこちらが打ち込む。
それを交わされるがもう片方の手に木刀を素早く持ち替え打ち込む。これには女も反応が遅れそのまま吹っ飛んでしまった。
「変な奴など、この世にはおらんのだ!」
けほけほと華奢な身体が上下しているのに気が付いて、手を差し出す。すぐに手が乗せられ立たせるために引っ張れば驚くほど簡単にそれが出来る。
飯は食っているのか、と疑ったがきちんと食べていたな、と数日の女の様子を思い出す。
そんな城主の心中など知らぬまま、またすぐに構えた女に対して、政宗は木刀を下ろした。
「名前の負けだ」
「・・・なっ!ま、待て!」
目を白黒させながらも、名前は木刀を下ろし傍にやって来る。政宗は木刀を取り上げると見下ろして笑う。
「それだけの実力がありゃあ、大丈夫だろう。・・・人を殺せるか、は別にしてな」
一瞬ぴくんと身体が止まったかと思うと、さっきまで不機嫌そうに政宗を見ていた切れ長の目がぱあっと明るくなっていく。
案外可愛いところもあんだな、と目を細めて頭を撫でてやる。嫌がるかと予想していたのだが、そのまま笑いながら目を閉じるではないか。
(か、可愛くって仕方ねえ・・・!)
(政宗様?いかがなされたのですか)
(いやなんでもねえよ。小十郎)
(・・・?)
身分の高い人物をフルネームって・・・かなり不遜ですが、bsrなので・・・