私は町に出ていた。
匡がいないのをいいことに人間のいる町に下る。祭りがあるというので見に行きたかった。
京の祭りには姉さまと姫様と行ったこともあるが長州の祭りは幼き頃に一度だけ両の親と行ったことがある程度だ。しかし、幼すぎた私にはぼんやりとしか思えていない。


前のように忍服で無いから動きにくい。人並みに呑まれながらゆっくりと賑わいを眺める。
京には勝らずとも中々楽しいものだな、と思った後そろそろ帰らなければ、と踵を返す。しかし、手首を掴まれ、私は素早く振り返った。

「てめぇ!勝手に外に出るなっつってんだろーが!」

「き、匡・・・か」

ほっと安心する。なんだ匡か、と何度も繰り返しながら掴まれていた手を掴む。ごつごつしている手なのに妙に心地よくなってぎゅっ、と手を握った。

「早く帰ろう、匡」


帰り道、しっかりと握られた手を見て幸せだなと感じる。幼き頃から優しかったけどそれは子供の優しいで。
今は気を使ってくれてるのが分かると言うか、手加減が出来るようになった感じだ。いや、それでは子供と変わらんか。

「名前」

「何」

「明日、風間のところへ行く」

「そう、いってらっしゃい。」

私は何も無いようにそう言うと匡は私へと視線を写した。目が物凄く不満そうで、何よ、と私も彼を見た。

「てめぇも来い。妻なんだろうが!」

「・・・は」

「だから」
「ち、違う!聞こえてるわ」

ふう、と息を吐く。そう言えばこの会話随分前にもしたような・・・。

って、そうじゃなくて私は風間家には行きたくない。千鶴様にはお会いしたいけれど当主には会いたくない。


「匡、妻だからって何処へでもついて行くものじゃないのよ」

「分かってるぜ、んなこたぁ」

「分かってるなら何故そんなこと」

言うのよ、と言っていたのにそれよりも彼の発砲した銃音の方が大きくて遮られる。
何してるのよ、と目で言うが匡は知らんふりする。

「てめぇを置いて行ったら誰があれから守るんだよ」

「あ、ありがとう」

恐ろしくなって繋いでいた手をぎゅっと握る。一人二人ではない、数十人といる人間は銃を私たちへと向けていた。
今匡がいなければ殺されていたと思うと怖くなってくる。何度も言うが今のこの格好じゃ走れない。こいつら人間でさえも凌げないのだ。

不安になった私に気が付いたのか匡は手を強く握った。安心しろ、と伝わってくるようでこくん、と無意識の間に頷いていた。





屋敷に近くないところで見つかってまだよかった。そうじゃなかったらきっとまた人間が来ていただろうから。
私たちは無事帰ってきて、疲れている匡に膝枕している。


我ながら少し前なら匡にこんなことしているなんて思いもしなかっただろうに、と考えるだけで笑みが零れた。

それに匡も変わった。
相変わらず、目も口調も悪いし新しいもの好きだけれど優しくなった。何より、無駄な戦いはしていない。
それどころか、今は妻に膝枕されて気持ち良さそうに眠っているのだから、人間何が起こるか分からない。

いや、鬼だな。


私は優しく頭を撫でる。男の人独特な痛んでいる訳ではないのだけれど女のように艶々でもないこの髪質が好きだ。

「匡、好きよ」

いいえ、愛してる。


あなたしか要らないと思える程。




勇猛の士ここに眠る
(それにしても気持ちよさそうね)

20100814