「き、匡!どういうこと!?」 「ああ? 決まってんじゃねぇか祝言挙げんだよ」 「・・・は」 随分前に姉さまは他の仕事は終わらせているのに何故か今も姫様を護衛していると姫様は風間家へ向かうと申された。 首を傾げながらも確かに千鶴様は心優しく可愛らしい方で姫様も好いているからだろう、と仮定を立てて何とか理由をこじつけておく。 しかし、違ったらしい。どう見ても風間家ではない。 目の前には匡がいて。 その隣りには千鶴様と隣りには金髪の美男子(この方が噂の風間千景だろう)と赤い髪の男の人が見える。 何故か姉さまもいる。 私ははてなを浮かべながら姫様を見れば笑顔で背を押された。あれよあれよと混乱している間にも部屋へ案内される。 そして有無も言わさぬ素早さで周りにいた女中が服を脱がし見るからに上等な着物を着せる。真っ白のそれを見て嫌な予感がした。 そもそもこの屋敷。匡の・・・ そこで本人がやってきて冒頭に至る訳だ。 「だから」 「い、いや聞こえたけれど何故?」 私、そんな話知らないのだけれど。 そんな風にやつを見ればハッ、と笑って赤い目が私を捉えた。 「名前と以外夫婦になる気なんてこれっぽっちも無かったからな」 待っててやったんだぜ、感謝しろよ。と嬉しそうに口角を釣り上げた。 別に私は誰ともそういう関係を持とうとした覚えはないんだけど、と心の中で思う。きっと前回会ったときに、私が彼を拒まなかったのが事の発端だったんだ。 しかし、嫌じゃない。 それが本音だった。突然のことで頭がついて行かなかったが、大して嫌だ、と思えない。 そんな風に思ってる間にも着付けは進んでいき、顔を上げさせられる。そして白粉を刷毛(はけ)で薄く塗って行く。 「あ、不知火さん。駄目ですよ、祝言前の嫁を見るのは!」 どこからか遠くで千鶴様の声が響いて、匡はちっと舌打ちしどこかに消えて行った。どうせ面倒だとか思っているのだ。 千鶴様と姫様が来られた頃には、目尻には赤を入れ紅も引かれ化粧は整っていた。 「うわぁ、名前さんお綺麗です!」 やっぱり君菊さんに似ていますね。 頬を綻ばせながら千鶴様は手を合わせる。姫様も笑いながら頷いているようだ。 「いいえ、そんなこと御座いませんよ。姉さまや姫様、千鶴様の方がよっぽどお美しゅう御座います」 それから、少し考える。私は忍びで匡はそれなりの家柄だ。他にもっといい女鬼はいるだろうに。 私は嫌ではない。しかし匡はああ言ったものの本当にいいのか。ふと考えてしまう。 「名前」 落ち着いた声が聞こえてはっ、と目線をそちらへ上げる。そこには姉さまがいて目を細めて微笑む姿は美しかった。 「名前、幸せにしていただくのですよ。」 「ね、姉さま。しかし」 髪を結ってもらっているため、小さく首を横に振る。私たちの会話を聞いてか、お二人は出て行かれた。 「あなたはそもそも腹違いの子。それもそちらの母上様は忍びの者ではないのよ」 だから、気に病む必要はないわ。 幸せになって。 そう言い残して姉さまは仕事があるからと姿を消してしまった。頭を撫でられた感覚は暫く残っていたのだった。 … 祝言が始まり、いよいよ宴へと変わり始めた頃だった。 千鶴様と隣りに並んでいる当主を見る。やはり噂は違えぬ俺様気質ではあったが彼女を深く愛しているのは見て取れた。千鶴様は幸せそうだ。 姫様は涙ぐみながら私を見ている。あの方には長い間お世話になり感謝しきれないな、と思いに浸る。 「おい、名前」 「は、 」 はい、と返事することも許されぬまま唇に彼の唇が合わさった。これには私だけでなくそこにいた者皆が目を見開いた。その瞬間、事もあろうか舌まで侵入させて徐々に声を漏らしてしまう。 離された後、私は息を切らしながら匡を睨む。しかし、不敵に笑った彼に高鳴りを覚えた私はどうしようもないらしい。 「これで変な虫は近づかねぇだろ!」 「匡、酔ってるわよね」 「はっ、俺様がすぐに酔う訳ねぇだろ!」 「(お願いだから酔ってると言って・・・!)」 心静かならず (落ち着かない) 20100814 |