「おはようございます」

珍しく屋敷に返ってきた匡さんはだるそうに頭を掻いた。昨夜、新選組の方とお酒を呑みに行かれ、遅くに帰ってきた。
戦友の方と仲良くなったのからか最近は彼の表情も随分柔らかくなったと思う。

「おう」

「頭痛ですか」

部屋に入って彼の傍に膝を下ろす。すると彼は多分な、と掠れた声で頭を押さえていた。

「それでは懐中汁粉を」
「いらねぇ」

立ち上がろうとする私の腕を掴んで苦しそうに息を吐く。私はそうですか、と返事してまた座りなおす。

「それでは、どうしましょう」

困ったように笑うと彼はちらりと私を見てからはぁと溜息を付いた。
その行為の意味が分からず首を傾げていると突然掴んでいた腕を引っ張られそのまま訳の分からないまま身体が前に倒れる。

気が付いた時には匡さんと仲良く布団の中だった。

「きょ、匡さん!?なな何を・・・」

すぐに抜け出そうと四つん這いになるが押さえつけるように抱きしめられる。きっとまだ酔いが覚めてないんだ、と思った私はそれ以上抵抗はしなかった。
抵抗しないと分かると彼は抱きしめていた腕を緩めて私の髪を撫でる。珍しい、と言うよりも初めてのことで心臓がバクバクと以上に動く。


「名前」

「は、はい」

名前を呼ばれ、髪を撫でられと私は匡さんの行動に心臓が破裂しそうな程嬉しさと恥ずかしさで満たされているのに彼は私の顎を持ち上げて上を向かせる。
相変わらずその褐色の肌も癖のある髪も、鬼独特な赤い目も全てが私を狂わせる。近づいてくる彼を私は目を閉じて受け入れた。


「好きだ」

唇が離れると耳元で低く呟かれる。痺れるような感覚が私の身体を支配した。
ああ、これは夢なのだろうかと問うてしまう程信じられない。

お酒が原因ではなければいいのに、そんな風に思いながら眠りに落ちてしまった愛しい彼の背中に腕を回す。
それから顔を頭上を上へと上げる。抱き合っている私たちはそれはそれは不埒に見えることでしょう。



空を仰ぐ
(うわ!名前!?)
(・・・・もう少し寝かせて)

(ったく、しゃーねぇな)

20100813