「斎藤組長、」
「どうか、したのか」

それが、とそっと組長に耳うちをすれば一瞬目を見開くと、すぐさまその場を後にした。私は彼の背を追うようにして続いた。
羅刹の者が屯所を抜け出した。
私と、斎藤組長、それに沖田組長とで奴等を探す手はずになっている。羅刹について知っているのは組長以上の者のみ。幕府からの密命であるがために屯所内であっても極一部の人間しかしらない。そのために、彼らが抜け出しでもすれば組長である私たちが探し、対処せねばならないのだ。


「速いね」

にこりと目を細めて笑う沖田組長にありがとうございます、と受け答えを返し夜の京へと走り出した。
最近、組長へと昇格した私は羅刹の方々が血に狂う姿を目にしたことが無い。彼らがそもそも隊士だったことすら驚きではあったのだ。血を啜るなど考えても思い浮かばない。
それ故に、彼らの叫び声が何なのか、分からなかった。



「血い寄越せえええ!」

「!」

背後を襲うようにやって来た浅葱色を召したそれに、私は反射的に腹へ刀を突き刺した。
ふう、危なかったと汗を拭う。

「ひひひひひ」
「ひゃああああああ!」

しかし。
腹を貫通したはずのそれは狂ったように声を張り上げ、正面で立っている。赤い目に白い髪、そしてこの笑い。
まさに化け物だ。

「血い、寄越せえ血いいい!!」

走ってきた羅刹の人の攻撃を受けようと防御を取ろうする。しかし彼らはそれを上回る速度で私の傍までやってきたのだ。
ぞくりと背中に悪寒が走る。

瞬きする暇も無く刀が振り下ろされる。私は刀の軌道を全て見た後、思った通りの痛みに目を瞑った。
愉快だと言いたげに口角を釣り上げ奇声を発する羅刹の方々に恐怖を覚えた。
自分は醜く切り裂かれ、遊ばれ死ぬのだ。
短い人生だったと涙する。


「何をしている、死ぬ気なのか!」

諦めた、時だった。
斎藤組長の声が聞こえ、そちらを見る。沖田組長と共にこちらに走ってきていた。
だけれど、間に合わないことなど組長へ昇格した私が分からぬわけではあるまい。せめて羅刹の特徴ぐらい聞いておくべきだったと少しの後悔を感じられた。

頭上へ刀が迫る、

私は少し微笑んで目を閉じた。



五分後のわたし
(斎藤組長と沖田組長によって、死んだ私を運ばれるの)

20101105//過去拍手より