「歳三さん!」

「うる、せえ」


私の膝の上に頭を乗せている彼を呼ぶ。すると彼は鬱陶しいと言わんがばかりに眉間に皺を寄せた。
荒い呼吸に最期を思わせて潤んでくる。
ああ、駄目だ。ぎゅっと口を噤み涙を我慢した。

いつの日だったか、彼は俺が死ぬときは絶対に泣くな、と言っていた。


何故だろう。こんな時になって今までのことが鮮明に思い返されるのは。
私は彼との約束を破らないようにとぎゅっと彼を抱きしめた。

しかし彼はすぐにそれを解いた。そして彼の手が私の頬に添わる。それを私の手がまた添える。


「あなたは本当に桜みたい」

同時につう、っと涙が頬を伝って、つん、と鼻が痛くなった。
涙は彼のもう片手の手で拭われ、そして頭を撫でられる。
儚く美しく。
桜のように。



いつの日だか、お前は死ぬなと言った。
いつの日だか、一人で逝ってしまうなと言った。

いつの日だか、泣くのは俺の前だけにしろと言った。



私になんて難しいことばかり言うんだ、そう思った。
今もそう思う。


「歳三さん歳三さん。歳三さん」

何度も彼の名を呼んだ。すると彼は険しい顔をしながらも口角だけを釣り上げて笑う。


「笑い、やがれ」

掠れた声が私の耳に届く。
約束。

いつの日だか、最期は笑えと言った。




「さようなら。また、逢いましょう」

笑顔で言った。涙はこの時出ていなかっただろう。


「     」

ひゅう、と音を立て声が出ないことがもどかしそうに顔を歪めて、それから私を見て

笑った。


「としぞうさん・・・?」


笑ってから一向目を開かない彼の名を呼ぶが、返答はない。
堰を切ったようにまた涙が落ちる。

最期、唇は私の名前を呼ぶように動いていた。


「あいかわらず、綺麗な人」


また笑った。



ゆっくり泣いて、そして笑って
(来世はどのように出逢う予定なの?)

20100917