目の前がふらついて気が付くと空と匡と血が見えた。あれ、自分は一体どうしたんだろう、と一瞬考えるがああ、と納得した。撃たれたんだ。まさか鬼である自分が人間ごときの放った銃弾に当たるなんて些か間抜けな話だ。しかもこの銃弾、どうやら銀の弾が詰めてあるらしい。それは撃たれる前から知っていたことだった。完全に人間を舐め腐っていた私へ神がお叱りになったのだ。さあいよいよ視界もままならなくなってきた頃、匡の香りがフワリと鼻を掠めた。何、なんであんた抱きしめてんの、なんて言う気力は無い。されるがままにしていると一層抱きしめる力が増した。そして顔に何やら水滴がぽたぽたと落ちてくる。雨が降って来たのか。曇っていたからいつ降りだしてもおかしくなかったからなあ。・・・違うか。違うね。匡の涙か。震えるなんて珍しいこともあるもんだ。笑っちゃうよ、昔っから匡は私が居ないと泣いてたから。今度は一生泣き続けるんじゃないの?可愛い奴だ。・・・そうそう、その可愛い奴に自分はまだ伝えていない言葉があったんだった。口を僅かに開いて声を出すために腹に力を込めただけで血が口から溢れた。あーあ、これじゃあ話せないや。最期だから伝えさせてよ。ねえ。



言葉の欠片
(言葉で封じて、心で伝えて、)

20101002