良則、良則
女性特有の割と甘ったるい声と共に身体が揺すられて、寝起き早々眉間に皺を作った。
それでも目を開けるか返事をしなければそれは止まることは無いと過去今までの経験上よくしっている俺は寝返りを打つ振りをしてその声の持ち主を抱きしめる。

「ちょ、ちょっとどうしたの?」

「うるせえよ、お前は黙ってろ」

「何それ」

抵抗するそれに更に力を込めると唸り声を漏らした後、それっきり何もしない。ゆっくりと目を開けると自分の上に居て、ぐしゃぐしゃに髪は乱れている。こりゃあ、抵抗すんのも当たり前だな、と先までの自分の行動を振り返った。
可哀そうな気がしてきた俺は散らばるように広がっている髪を整えるように頭を撫でてやる。実際、それ程効果はないことなど分かっているが。

「今日はどうしたの」

「あ?何がだよ」


俺を捉えて離さないその大きな目にじっと大人しく囚われながら、鼻で笑う。ずっと撫でたままであった手を止め、返答を待っているとぐいと引っ張られる。そして気が付けば馬乗りされたままぐいと顔を近づけられた。瞳に映っている俺はいつもの様子だ。

「だっていつもなら、もうとっくに起きてランニングに行ってるじゃない」

そう言ってちらりと目線が横にある棚に乗っている時計へと目が向けられる。針は丁度8と12をさしていた。確かにいつもの俺らしくなく遅い起床だ。


「昨日は試合の後、飲みに行ったからな」

「そう言えばそうだったね。先に寝ててごめん」

でもちゃんと試合は見てたよ。シュートおめでと。
苦笑いのような嬉し笑いのような、色々が混ざった笑顔で笑う。普段可愛げの無いこんな女だが、こういうところは矢張り可愛いと思う。馬乗りになってるそいつを退かしてベットの中に入れる。いつものようにもがくから、ヘッドロックをかましてやると蛙の潰れたような奇声を発して文字通り潰れた。

その間にベットを出てデスクの引き出しを引いて中を見渡す。

「何してんの?」

ごそごそと布団が擦れる音と共に声が届く。俺はその声に返事は返さず、布団の中へもう一度入る。


「名前」

ぐいと布団の中に埋もれている腕を引っ張ると俺のとは比べものにならない程柔く白い腕が現れた。仰向けになったまま腕を引っ張られていると言う、何とも不恰好な姿に吹き出しそうになるのを堪えてその上に自分の掌を乗せる。すると怪しげな表情をさせて起き上がった名前は俺と向かい合うように体制を整えた。
見ると訳が分からないと顔でそのままの表情を表現している名前に呆れながら、繋がっている手に力を込めた。


「いつも、ありがとう」

歯の浮くような台詞を言っていることに羞恥が混ざってぎゅっと、存外小さな彼女を包み込む。すぐに彼女の腕が俺の背に回って、肩のあたりが湿ってきた気がする。


「指輪・・・っ」

そして涙声で、ありがとうが返ってくる。

20110127//手のひらのなかに