「名前さん、ちょっといいっすか」

今日も大好きなサッカーに囲まれながら、大好きな有里先輩と大好きな広報の仕事をしていると背後から声を掛けられた。一瞬脳が全神経に止まれと命令するとその通り私の身体はぴたりと硬直した。そして数秒後、ゆっくりと振り返ると一つ年下の赤崎遼がじっと私を見ている。いや、語弊あるようだから言っておくと、見下している。完全に。


「何?カッコつけの赤崎君」

君の顔は見たくない。ので、背を向けたままデスクワークしていく。その間彼は全くと言っていい程、存在感を表さずふっと振り向きそうになる。しかし、丁度振り返る瞬間に嫌と言いたくなるぐらいに視線を、彼を感じてしまうのだ。
私はぐっと眉間に皺を寄せたまま、パソコンから目を離さずに言った。

「何か用事、あんの?」

「別に用事って訳じゃないんすけど・・・今日空いてますか」
「申し訳ありませんが、本日は有里先輩とご飯を食べに行くのであかさ」
「俺も行く」

「・・・は?」

背を向けたまま相手の会話にいち早く断りの返事をしていると、それすらも遮られ更に赤崎までもがついて来る流れに傾いている。私はぎい、と椅子を回し先は背後にあった気配を正面で受け止めた。
勿論、私は今眉を歪めている。

「俺も名前さんと有里さんと一緒に行くって言ってんの」

聞こえねえの?
そんな眼差しが私へと延び、赤崎は腕を組み片方に重心を傾け立っており、矢張り見下ろしている。確かに代表に選ばれ、ルックスも若者って感じで格好いいかもしれないけれど。サッカーでは凄くいいものを持っていると思うけれど。こいつのこのカッコつけだけでは済まされない俺様以上の性格を受け入れて、または知らぬまま格好いいと言っておられる全女性に問いたい。

これのどこがいいんだ。


「じゃあ、そういうことなんで。有里さんには俺の方から言っておきます」

目を細めてにっと笑いながらジーノさんのようにひらひらと手を振って事務所を出て行った。私はぽかんと口を開けてその始終を見送った後、デスクに突っ伏してしまった。
本当に苦手以上嫌い未満な奴。有里先輩が断って下さいますように。っつっても、いるんだろうなあいつ。私がジーノさんのことを恋愛感情無く好きなの知ってて、あれやってんならホント止めてほしい。いやもう死んでほしい。カッコつけの赤崎君よ。

20110127//目を瞑る