鳴り響いたチャイム音に私は台所からすぐに玄関へと向かう。そして外を一度確認してから、ゆっくりとドアを開いた。

「久しぶりだねえ、何年ぶり?」

にへらと笑みを浮かべた幼馴染とも言える男に、三年ぶりじゃないかな、と淡泊な物言いで返す。そしてリビングまで連れて行くと彼はあれ?と目を見開いて私を見た。
何となく彼の言いたいことが伝わった私は目を細める。単純なこと考えているに違いない。

「名前ちゃんって彼氏いたの?」

ほらね。くだらないことしか考えられない奴なんだから。

「連絡しておいたでしょ。あとのメンバーは?」

上着を受け取ってハンガーに釣ってやってから、二人の間に入るように座る。何となくではあるが、彼らはきっと反りが合わないと思う。タイプが違い過ぎる様な気がするからだ。

「後の奴等は軽くつまみでも買ってから来るってさー」

長めの髪を撫でつけながら、片手で最近人気が落ちている元総理大臣の息子がしているような手袋を脱いで、私のデスクの上に放り投げる。それから私越しに黒田さんを睨み見た。


「こら」

窘めるように腕を音もしないぐらいの力で叩く。案外、この男の方が暴れるかもしれない。

「おい」

低く唸るような声に私はびくりと肩を上下させた。振り返ると文字通り威嚇している黒田さん。いや、まだ威嚇まではしていないものの一発触発な雰囲気はある。

「黒田さん、落ち着いてください。この人少し人見知りが激しいものですから」

「俺は落ち着いてるよ!」

全然落ち着いてないってば。
なんて心中吐き出しながら必死の懇願に彼も仕方なくと言った風に不貞腐れた表情でテレビへと視線を移してくれた。私はほっと一息ついてから、またリビングに戻る。いつ喧嘩が始まるかと気が気ではないが。



「じゃあねえ〜、今度は一年後ぐらいには会いたいねえ」

「いやいやあ、来月でもいいんじゃね?」

「はいはい、また後日メールするから今日は気を付けて帰ってよ」

酔って呂律の回らないらしく覚束ない口調で友人たちは各々好きなように話し始める。私は玄関まで見送りをしてすぐにリビングへと向かうと、終始ふてぶてしいまでに話をしようとしなかった黒田さんが一人でテーブルに肘ついていた。
この人結局なんのために家に来たのだろうか。


「名字」


「なんですか」

ゆっくりと彼の隣りに腰を下ろして座ると、漸く私を見た。少し機嫌は直ったらしい。
黒田さんとは正反対に、私は自分の家ということもありリラックスした気持ちで彼を見遣った。サッカーしている時同様に、真剣な眼差しの彼に私も同じように対応する。


「その、だな。それ、止めろ」

「‥それ?」

唐突な指示語に私は思わず問い返した。クラブでも思っていたけれど、どうして彼はこうも全てが突然なのだろう。
そんな疑問を抱えながら、何時間か前のように説明してくれるのを待っていると物凄い勢いで睨まれた。

「け、敬語だよ!それぐらい分かれよバカ!」

バカって何よ、と言い返しても良かったのだけれど、睨みみる彼の赤い顔がその威力を半減して大して怖くは無い。
黒田さんが不器用だなんてことは、数ヶ月お世話になっていれば目に余るほど分かる。そしてこれは照れ隠しだと言うことも。

「・・同じ年ですしね」

はい、と頷いて返事すればほっとしたような黒田さん。

私の方がほっとしたい気分だ。


(終点見逃す前に帰ってくださいよ)
(・・・言った傍からあんたは)
(あ)

20110122// 施された
加筆修正 20120816